二宮清純コラム プロ野球ガゼット
2018年11月30日(金)更新
15:00
巨人・菅野智之、「19」から「18」へ
悲運のエース小林繁のビンテージイヤー

今季、投手三冠(最多勝、最優秀防御率、最多奪三振)に加え沢村賞を獲得した巨人・菅野智之投手の背番号が19から18へ来季、変更になります。27日に行われた「NPB AWARDS 2018」の席上でこう語りました。
「巨人の背番号18といったら菅野と思ってもらえるように、そういう活躍をしていきたい」
「お前しかいない」
背番号変更を要請したのは叔父の原辰徳監督です。どんな意図があったのでしょう。
「来季から18を背負って戦うという話を2人でしました。私もジャイアンツの長い歴史の中で背番号18の重さを感じております。それが空き番号になったこともあり、どうかと伝えました。最初は『僕でいいんでしょうか?』と聞き返してきたので、『お前、それはね、智之しかいない』と。すると『わかりました』と答えてくれました。これまで残してきた記録もすごい。さらに、それを抜けるような活躍をしてほしい」
言うまでもなく巨人において18は不動のエースナンバーです。かつて中尾碩志さん(通算209勝)、藤田元司さん(同119勝)、堀内恒夫さん(同203勝)、桑田真澄さん(同173勝)、杉内俊哉さん(同142勝)がこの背番号で巨人を牽引しました。その重みについて、桑田さんは自著「心の野球」(幻冬舎)の中で、こう述べています。
<僕は、この背番号をいただいたときから、それにふさわしい選手、人間になろうと思ってずっと自分なりに努力してきた。18番は一軍で活躍しなきゃいけない番号。だからこそ晩年のシーズン終了後に「18番をお返しします」と話をしたことがあった。チームに貢献できていないのにつけているのは18番に対して申し訳ないと思ったからだ。>
一方で菅野投手が背負ってきた19にも物語があります。菅野投手が背負う前の巨人の19といえば上原浩治投手でした。1999年、大阪体育大学からドラフト1位(逆指名)で巨人に入団。ルーキーイヤーに20勝をあげ、最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手四冠を達成。新人王と沢村賞にも輝きました。以後、MLBに移籍するまでの10年間で通算112勝をあげています。上原投手は菅野投手の少年時代のヒーローでした。
「僕の小さい頃、巨人のエースといえば(19番を付けていた)上原さんのイメージが強い」
菅野投手は平成元年生まれです。では昭和のファンはどうでしょう。19といえば多くの者が小林繁さんを思い浮かべることでしょう。
たった一つの要望
小林さんは73年、ドラフト6位で社会人の全大丸から巨人に入団しました。入団当初の背番号は40。19に"昇格"したのは2年目の74年からです。その年こそ球団の期待に応えて8勝をマークしたものの、翌75年は5勝止まり。チームも球団史上初の最下位に沈みました。シーズンオフ、小林さんは当時の監督、長嶋茂雄さんに背番号の変更を申し出たといいます。
「もっと大きな番号に変えてください」
小林さんの申し出に対し、長嶋さんはこう答えました。
<「コバ、もっと自分を大事にしろ。それに自分の番号ももっと大事にしろ。お前は現役を引退するまで19番を背負い続けるんだ」>(情熱のサイドスロー小林繁物語/近藤隆夫著/竹書房刊)
意気に感じた小林さんは76年、77年と連続して18勝をマーク。長嶋巨人の連覇に貢献しました。翌78年も13勝。甘いマスクと相まって細身のエースの人気はうなぎのぼりでした。だが、舞台は暗転します。78年オフ、いわゆる「江川事件」の犠牲者となってしまったのです。
野球浪人中の江川卓さんを巨人が野球協約の盲点である「空白の一日」を突いて契約したことに端を発するこの事件は、社会問題にまで発展しました。
結末は後味の悪いものでした。金子鋭コミッショナーの「強い要望」の下、いったん交渉権を持つ阪神に入団。その後、巨人にトレードするというものでした。その交換相手に指名されたのが小林さんだったのです。
理不尽極まりない話ですが、小林さんは一切不満を口にせず、阪神へのトレードを承諾しました。その際、ひとつだけ阪神に要望したことがあります。それが背番号19のユニホームだったのです。
縦縞を身にまとった小林さんは、さらに細く映りました。マウンドには悲壮感があふれていました。「巨人を見返してやる」。その思いを胸に、移籍1年目、自己最多の22勝をあげたのです。巨人戦には8回先発して8連勝(完封3)。この年の鬼気迫るピッチングは今も脳裏にこびりついています。小林繁、生涯きってのビンテージでした。

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