二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2019年10月1日(火)更新

15:00

ヤクルト館山昌平の“不死鳥伝説”
壮絶なる“175針の縫い跡”の教え

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 私と同年代以上の方々なら、鶴田浩二が左手を耳に当てながら♪古い奴だとお思いでしょうが、古い奴こそ新しいものを欲しがるもんでございます♪と、ひとり語りをし、♪何から何まで真っ暗闇よ♪と歌い出すシーンを覚えているはずです。歌の題名は「傷だらけの人生」でした。

 プロ野球の世界で、17年間、文字通り「傷だらけの人生」を送ったのが、先頃、現役生活に別れを告げた東京ヤクルトの館山昌平投手でした。

「傷だらけの人生」

 “松坂世代”のひとりである館山投手は日大藤沢高(神奈川)から日大を経て、2003年、ドラフト3位でヤクルトに入りました。右スリークオーターから多彩な変化球を投じ、プロ17年間で通算85勝68敗10セーブ24ホールドの成績を残しました。

 だが、彼の“値打ち”はそうした数字とは別のところにあります。それは右ヒジ側副靭帯再建手術(トミー・ジョン手術)や右手血行障害改善手術など計9度の手術を受けながら、そのつど復活し、38歳まで現役を続けたことです。

 ヒジや肩に刻まれた手術の縫い跡は、驚くことにプロ17年間で175針。顔を合わせるたびに「通算200針で名球会入りです」と冗談めかして語っていました。

 彼の“球歴”ならぬ“術歴”を振り返りましょう。最初のトミー・ジョン手術はプロ入り2年目、04年の3月でした。キャンプ中に右ヒジ靭帯を断裂し、術後1年間をリハビリに費しました。しかし、ここからが館山投手の“不死鳥伝説”の始まりでした。05年4月に1軍復帰し、その年はプロ初勝利を含め10勝をマーク。さらに08年にはヤクルトの右のエースとして最高勝率、09年には最多勝のタイトルにも輝きました。

 その後も病院と球場を往復する日々が続きます。11年11月に右手血行障害の改善手術、13年4月と14年4月には2年連続してトミー・ジョン手術を受けました。他にも肩や股関節などにメスを入れています。

 4年前、3度目の執刀手術を行った古島弘三医師(慶友整形外科病院スポーツ医学センター長・当時)に話を聞く機会がありました。

「それはそれは、もうひどい状態で、手術は2時間に及びました。ヒジは骨と筋肉と靭帯で支えていますが、館山投手の場合、靭帯だけではなく、筋肉も断裂していたのです。手術で同じところばかり開けているので、筋肉同士が癒着してしまっていた。しかも屈筋群はベロンとはがれている。私が知る中でも、これまでで最もひどいケースでした」

「車でいえば中古車」

 普通の選手なら、「ここまでよく頑張った」と自らを慰め、ユニホームを押し入れにしまうところです。ところが、館山投手はまたしても立ち上がるのです。1年以上のリハビリを経て、15年6月に1軍マウンドに復帰、7月には1019日ぶりの勝ち星をあげました。結局、この年、館山投手は11試合に投げ6勝をマーク。チームの14年ぶりのリーグ優勝に貢献するとともに、カムバック賞にも輝きました。

 館山投手のインタビューで印象に残っているのが以下の部分です。

「左腕、右腕、ついには足の裏の腱まで取って、もう僕には腱を取る場所がないんですよ」と言い、彼は自らの体を「中古車」にたとえたのです。

「単に血行障害になりました、リハビリをしました、手術をして治りましたという人と僕の場合は違うんです。車でいえば使い古しの中古車です。ひとつ治れば、ひとつがまた壊れる。その繰り返しなんです」

 ある種、諦めのような物言いですが、これで終わらないのが館山投手の真骨頂でした。血行障害を患うと、指先でボールを握ると指がヘコんでしまうと言います。あろうことか、館山投手はそれを武器にしたのです。

「投げる前にギュッと指先をボールに押し付けると、指先に縫い目の跡がそのまま残るんです。そのヘコミに引っかけてボールを投げると、コントロールがつくんです。この発見はおもしろかったですね」

 私は返す言葉がありませんでした。

 神宮で21日に行われた引退試合、館山投手は中日・大島洋平選手を4球でセカンドゴロに仕留め、「傷だらけの人生」にピリオドを打ちました。

 今後については「未定」と語る館山投手ですが、“175針の縫い跡”から教わったこと、学んだことを後輩たちに伝えない手はありません。いずれコーチとしてグラウンドに戻って来る日を楽しみに待ちたいものです。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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