二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2018年4月13日(金)更新

13:00

ハリルホジッチ代表監督「解任劇」で考える
同じクビでも「辞任」より「解任」がマシ?

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 この1週間、スポーツ界はサッカー日本代表、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の解任騒動に揺れました。まさか西野朗新監督がロシアW杯の指揮を執るなんて、彼が2年前に日本サッカー協会の技術委員長に就任したときには想像もつきませんでした。これは2度、W杯で指揮を執った岡田武史さんが、かつて口にした言葉ですが「人生はあざなえる縄のごとし」とは、よく言ったものです。

本番2カ月前のドタバタ

 これについての私の感想は、4月10日付のスポニチ紙の連載コラムでこう記しました。その主要部分を紹介いたします。

<マリとウクライナを相手にしたベルギーでの2試合は、内容的にほとんど見るところがなかった。収穫があったのは少々、無理をしてでもゴールに向かおうとする強い意志を感じさせた初代表、中島翔哉の野心的な自己主張くらいだった。
「ボールを保持しながら流動的にできればよかったが、それは監督が求めることではない」。宇佐美貴史のコメントが全てを物語っていた。それでは、ただ指揮官の顔色を窺うだけの"忖度サッカー"ではないか、と突っ込みを入れたくなったが、代表監督は人事権という最大にして最強の権限を握っている。しかもW杯は4年に1度なのだ。誰が「今の監督とはソリが合わないから、4年後を待つ」といえよう。代表監督が持つ権限の強大さは、官僚を自在に操る内閣人事局の比ではない。
 それにも増してハリルホジッチは強権的な指導者だった。これは元監督のフィリップ・トルシエにも言えることだが、アフリカ諸国で指揮を執ったことのある人物の振る舞いは、どこか植民地の総督風だ。選手の反乱を恐れるあまり、過剰に強いリーダーを演じようとする。あるいはカリスマを装おうとする。
 結果が出ているときは、それでもいい。だが結果が伴わないと、途端に求心力を失う。田嶋幸三会長は、「マリ戦、ウクライナ戦の後、選手とのコミュニケーションや信頼関係が多少薄れてきた」ことを解任の理由に挙げたが、そもそもコミュニケーションや信頼関係が成立していたかどうかさえ疑わしい。コミュニケーションとは、ある意味、感情を言語化する作業だが、それに長けていたとも思えない。今後、代表監督を選ぶ際は、実績や"身体検査"に加え、コミュニケーション能力も基準の1つに入れるべきだろう。言語障壁のある日本にやってくるのだから、なおさらだ。>

名誉よりもギャラ?

 さてプロ野球です。いわゆる「解任騒動」で私が最も強く印象に残っているのが1977年秋に起きた南海・野村克也さんの一件です。以前にも書きましたが、もう一度、概要を述べましょう。

 9月に入り、南海は2試合を残して、プレーイングマネジャーである野村さんの解任を発表しました。理由は「女性関係など私生活の問題」でした。昨年亡くなった夫人の沙知代さんと野村さんは当時、愛人関係にあり、その愛人を監督室に出入りさせて、果ては選手起用にまで口を出させチームの和を乱した----。それが「解任」の理由でした。

 しかし、これはとんだ"濡れ衣"だったようです。野村さんと行動をともにした江夏豊さんはこう語ったものです。

「報道されたようなサッチーが監督室に出入りしていたとか、それは一度も見たことがない。たまたま1回くらいあったのを球団が解任理由に使ったんやろう。まああちこちに敵の多い人やったからなあ。そうでもなきゃあの年、前期2位、後期3位の監督を誰がクビにするかい」

 この解任劇には"黒幕"がいたと言われています。元監督の鶴岡一人さんです。南海をリーグ優勝10回、日本一2回に導いた名将です。

「鶴岡元老の圧力で吹っ飛ばされました」

 記者会見での野村さんの第一声を聞き、江夏さんは「このおっさん、ホンマに言うてしもうた」と、真っ青になったそうです。

「あの2人の間には相当な因縁があったんやろうけど、オレは知らんことや。とにかくおっさんの第一声で組織の人間としてやってはいけないことをやってしまったと我にかえった。もうオレは野球ができなくなる、と覚悟した瞬間やったな」

 サッチーさんは昨年12月、85歳で他界しました。ポツリと漏らした野村さんの一言が胸に染みました。

「人はいろいろ言うけど、オレにとっては良い女房やった。あいつはプロ野球選手の妻としては最高や」

 ところで、プロ野球の監督の中には「辞任するくらいなら、解任の方がいい」とはっきり口にする者が何人かいました。

 ある監督によれば、解任の場合、契約期間内の報酬は全額保証されるし、場合によっては違約金も手にできる。しかし辞任だと、その時点で支払いはストップするというのです。サラリーマンにたとえれば同じ退職でも自己都合と会社都合では、保証される額が異なるというわけです。

 私も以前、ある監督から「記事にするなら辞任ではなく解任とはっきり書いてくれ」と言われたことがあります。名誉よりもギャラということでしょう。「では、その間をとって更迭でどうですか?」と言うと、嫌な顔をされたものです。さてハリルホジッチ元監督は違約金を手にできるのでしょうか?

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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