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二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2016年8月30日(火)更新

「短期決戦に強い」工藤神話
修羅場の観察眼は健在か!?

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 文字どおりのデッドヒートレースです。パ・リーグは8月29日現在、福岡ソフトバンクが首位に立っていますが、ゲーム差では2位・北海道日本ハムに0.5ゲーム及びません。それでも首位にいるのは、勝率で1厘だけソフトバンクが上回っているからです。

 両チームともに総力戦の様相を呈していますが、こうなると気になるのはリーグ戦終了後のことです。果たしてクライマックスシリーズを戦い抜く余力が、どれだけ残っているのか……。

シーズンとは別物

 パ・リーグでは04年にプレーオフ制度を導入しました。07年からはセ・リーグも同調するかたちでプレーオフ、いわゆるクライマックスシリーズが始まりました。

 3戦2勝のファーストステージ、6戦4勝(アドバンテージ1勝含む)のファイナルステージ、いずれも短期決戦でシーズン順位とは異なる結果になることが多々あります。

 この短期決戦に最も泣かされてきたのが、ソフトバンク(ダイエー時代含む)です。

 2004年、05年はレギュラーシーズンを1位で終えましたが、第2ステージで敗れて日本シリーズ進出はなりませんでした。シーズン3位となった06年は第1ステージを2勝1敗で勝ち上がり、第2ステージでは日本ハムと対戦しました。

 日本ハムが2勝(アドバンテージ1勝を含む。当時は3勝勝ち抜け)をあげ、後のなくなったソフトバンクが背水の陣で臨んだ第2戦は今も語り草です。

 ソフトバンク斉藤和巳投手、日本ハム八木智哉投手の両先発が、互いに相手をゼロに抑えてゲームが進みました。迎えた9回裏、日本ハムの攻撃は1番・森本稀哲選手からでした。ここで斉藤投手はストレートのフォアボールを与えました。

 田中賢介選手の送りバントで森本選手が二塁に進むと、3番・小笠原道大選手を敬遠して1死一、二塁。続くフェルナンド・セギノール選手を三振にとってツーアウト。バッターボックスには勝負強い稲葉篤紀選手が入りました。

 2球目、低めのフォークボールを弾き返した稲葉選手の打球は、斉藤投手の足元を襲いました。倒れ込んだ長身の斉藤選手のグラブをかすめてセンター前に抜けようかという当たりでしたが、セカンド仲澤忠厚選手が回り込んで好捕しました。

 しかし二塁へのトスがやや逸れてセーフに。このときセカンドランナーの森本選手は、敢然と三塁ベースを蹴っていました。

「倒れ込んだ後、セカンドがトスするときに(森本選手が)三塁を回るのが視野に入っていました。セーフの判定でアッと思ったけど、もう遅かった。全力を出しきったので悔いはありませんが、もしやり直せるとしたら、あの(フォアボールを出した)森本選手の打席だけはやり直したいですね」

 斉藤投手は後のインタビューで、この試合を振り返りました。号泣しながら両脇をチームメイトに支えられてベンチに戻る姿は、今も脳裏に焼き付いています。

 さてソフトバンクは04年から15年まで10回、プレーオフに進出しています。そのうち日本シリーズ出場を果たしたのは11年、14年、15年の3回だけです。10年はシーズン1位ながら2位・埼玉西武とゲーム差ゼロの接戦を演じた影響からか、ファイナルステージでは王手をかけながら3連敗して敗退しました。

次打者も観察する

 ソフトバンクは短期決戦に弱い----。そう言われるのも無理からぬ話です。もっとも昨シーズンから指揮を執る工藤公康監督は、現役時代に「日本シリーズ男」として鳴らすなど、短期決戦を得意としていました。

 西武、ダイエー、巨人で計14回出場し、11回も日本一になっています。選手個人としてはシリーズ通算8勝3セーブ。通算奪三振102個はシリーズ記録です。最優秀選手賞(MVP)2回、優秀選手賞も2回と輝かしい表彰歴を誇っています。

 工藤監督はシリーズでの強さの秘訣を以前、こう語っていました。

「日本シリーズではアドレナリンが出るから、球速も速くなるんですよ(笑)」

 これは半分冗談でしょうが、工藤監督の勝負強さを示すシーンを二つ紹介しましょう。ひとつは86年、西武時代に広島と対戦したときです。

 延長10回表にリリーフとしてマウンドに上がった工藤監督は、12回裏にバッターボックスに立ちました。広島のストッパー、津田恒美投手の投じたインコースのストレートをライト線に弾き返して西武がサヨナラ勝ちを収めました。

「直前の12回表に達川(光男)さんにデッドボールを当てていた。なんとなくインコースを攻めてくる雰囲気があったんです。1球目は足元のボール。2球目も同じようなところに来るんじゃないかなとバットを振ったら当たりました」

 まさに狙い撃ちでした。3連敗から奇跡の逆転日本一のきっかけをつくる一打でした。

 またホークスが福岡に移転して初の日本一に輝いた99年、中日との日本シリーズ初戦に先発した工藤監督は、中日の1番打者・関川浩一選手を完全に抑えました。関川選手は中日の切り込み隊長。いかに彼を封じるかがシリーズのポイントでした。

「関川のように前でさばくバッターは1球インコースを投げれば、何を待ってるかが分かるんです。それでもう完全に抑えられた。関川を出すとクイックもしなきゃいけないから、彼を抑えるのがポイントでしたね。あとはネクストバッターズサークルにいる打者を見てました。僕が投げるどのタイミングでバットを振るのかを観察して、"あ、スライダーを狙ってるんだな"と。あのシリーズは理想のピッチングができたと言っていいですね」

 工藤監督が現役時代、短期決戦に強かった理由は、こうした修羅場の観察眼にあったように思われます。それは指揮官2年目の今季も発揮されるのでしょうか……。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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