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二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2017年1月17日(火)更新

王貞治が舌を巻いたイチローの"準備力"
"世界一"奪還を目指す侍ジャパンのレガシー

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 第4回ワールドベースボールクラシック(WBC)に向け、野球日本代表(侍ジャパン)は2月23日の宮崎合宿から本格始動します。その後、強化試合などを経て3月7日、キューバとの初戦に臨みます。

練習前の打球音

 さて、振り返れば第1回WBCは今から11年も前のことです。当時はWBCと聞いてもピンときませんでしたが、これは関係者や選手にとっても同じことでした。「海の物とも山の物ともつかない」大会の代表監督には王貞治さんが選ばれました。

 代表監督を任された王さんは世界一に向けて選手のリストアップを始めました。実力主義ということで、まずは日本人メジャーリーガーに出場を打診しました。所属球団の方針もあり態度を保留する選手が多い中、真っ先に参加表明をしたのが、当時マリナーズに所属していたイチロー選手でした。

「王さんを世界一にするために」「王さんに恥をかかせるわけにはいかない」とのイチロー選手の発言は、船出する"王ジャパン"にとって最高の援軍となりました。

 一方で王さんもイチロー選手のプロとしての意識の高さには舌を巻いていました。"名人は名人を知る"ということでしょう。

「イチローの試合に対する準備、その意識の高さがプロ野球を変えましたね」

 第1回WBCの代表メンバーに選ばれたイチロー選手は、決勝まで全試合でヒットを放ち打率3割6分4厘、5打点の成績を残しました。だが、それ以上に王さんが感心したのがイチロー選手の野球に取り組む姿勢でした。

「大会前の合宿初日、2月21日に福岡ドームに代表選手が集まりました。僕が訓示を述べた後にウォーミングアップをして、その後にダッシュをしたんですが、イチローは1本目から全力なんですよ。当時、日本代表に選ばれるような選手は若手に比べれば、まあ調整はゆっくりですよね(笑)。ところがイチローは(体を)仕上げてきているから1本目から全力ダッシュ。キャッチボールも全力でしたから、他の選手もびっくりしたんじゃないですかね」

 その後、国内の第1ラウンドを勝ち上がった日本代表は第2ラウンドが行われるアメリカ・アナハイムへと移動しました。王さんはここでもイチロー選手のある行動に目を奪われたと言います。

「アナハイムで行われた第2ラウンド、イチローにはアメリカの自宅から通うことを許可していました。たとえば10時に練習開始の場合、こちらはホテルをバスで出て9時半には到着する。するとグラウンドからもう打球音がしているんですよ」

 王さんが驚いた打球音の主はもちろんイチロー選手でした。10時の練習スタートに合わせてランニング、ストレッチなどを終わらせ、完璧な状態で練習開始を待っていたのです。

備えあれば憂いなし

「あのときの代表選手にとってWBC優勝も大きな財産ですが、それ以上にイチローの生き様、プロ野球人というのはどうあるべきかを勉強したのが大きいでしょうね。今のプロ野球、選手の仕上がりが早いからキャンプ初日からシートノックをすることも増えてきた。あれこそイチロー効果ですよ。WBCでイチローに接した選手がチームに持ち帰って他の選手たちの意識も変わったんでしょうね」

 広島の大瀬良大地投手は、年末に17年シーズンの目標を聞かれてこう語りました。

「黒田(博樹)さんを見習って、今度は僕が球場に一番乗りしたいと思います」

 大ベテランながら球場に一番乗りしていた黒田投手はメジャーリーグ時代に海の向こうでイチロー選手と交流がありました。不惑の元メジャーリーガーが広島に"イチロー流"を伝えていたのです。

 最後に元巨人、鈴木尚広さんの話を紹介しましょう。"足のスペシャリスト"として20年、昨シーズンで現役生活をまっとうした鈴木さんも常に球場一番乗りを心がけていました。巨人では上原浩治投手、阿部慎之助選手らがWBCでイチロー選手とチームメイトでした。鈴木さんも彼らからイチロー選手の"準備力"を聞かされたと言います。

「デーゲームなら朝7時、ナイターなら11時にはドームに行っていました。心身をリラックスさせる足湯から始まり、ウォームアップ、ストレッチ、体幹トレ、ランニングなどをこなして、ユニフォームに着替える全体練習までみっちりと体を動かしてましたね。代走が多かった晩年は試合に出るか出ないか分からないことも多かったけど、このルーティンを崩したことはありませんでした」

 鈴木さんの早出を見習って、巨人の若手たちも午前中からドームにやってくるようになりました。ちなみに鈴木選手の最高年俸額は6000万円でした。「随分と足で稼ぎましたね」と水を向けると、鈴木選手はこう言いました。

「盗塁などの成績はもちろん早出の分もきちんと査定してもらっていました。若手の意識を変えたことを評価してくれたんですね」

 備えあれば憂いなし----。今回、イチロー選手のWBC参加は微妙な状況ですが、彼が常に口にする「ルーティン」は、世界一奪還を目指す今の侍ジャパンにもしっかりと受け継がれているはずです。

K.Ninomiya二宮清純

二宮清純コラム プロ野球ガゼット

二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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