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二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2016年9月30日(金)更新

高井保弘、八木裕、桧山進次郎。
一振り稼業に賭けた男たちの生き様

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 北海道日本ハムが4年ぶりのリーグ優勝を決めました。9月28日の埼玉西武戦、優勝決定の瞬間、マウンドにいたのは大谷翔平投手でした。9回125球を投げて被安打1、15奪三振の完封勝利。エンジン全開の大谷投手は、ちょっと手が付けられない感じです。

 さて大谷選手は前日27日の試合にも出場していました。「投手」ではなく「選手」と書き改めたのは他でもありません。なんと代打で登場したのです。3点を追いかける7回表、2死一塁。8番の大野奨太選手に代わって、ベンチは大谷選手を打席に送りました。

 ここで大谷選手は岸孝之投手の初球を左中間に運びました。快足を飛ばして二塁まで進み、2死二、三塁。チャンスが広がりましたが、後続が倒れて得点はなりませんでした。

 それでも「代打、大谷」のアナウンスが流れたとき、球場には大きなどよめきが起きました。やはり大谷選手は特別な存在のようです。

勝負は1球だけ

 代打というポジションは本来、地味な仕事です。大谷選手のようなスター街道まっしぐらのプレーヤーには似つかわしくない仕事と言えるかもしれません。それゆえ、一振りに賭ける男たちの打席での姿には哀愁が感じられます。

 代打屋と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、元阪急の高井保弘さんです。代打ホームラン27本の「世界記録」を持っています。

 高井さんは今治西高(愛媛)から社会人野球を経て阪急に入団しました。2軍ではプロ入り4年目の67年に首位打者、68年にはホームラン王と打点王の二冠を獲得しました。打つことにかけては、「誰にも負けない」と自負していた高井さんでしたが、足が遅いことに加え、守備は上手ではありませんでした。

「野球選手である以上、誰だって4回は打席に立ち、守備につきたいと考えている。でも、チームはそれだけじゃ成り立たない。まあ使ってもらえるなら、辛抱しようと。代打は1球勝負だから失敗が許されん。4回打席に立てるバッターとは、打席での緊張感が違う」

 いかに一振りで仕留めるか----。高井さんが師と仰いだのが64年に来日して阪急入りしたダリル・スペンサーさんでした。

「スペンサーはピッチャーが投げるたびにメモをとる。そこまでするか、と雷にでも打たれた気分やった。それからやな、ワシがピッチャーのクセを盗むようになったのは……」

 高井さんは見よう見まねでスペンサーさんの観察術を盗み、それを磨き上げました。スペンサーメモに倣って、それを書き留めたのが「高井メモ」です。一度、その中を見せてもらいましたが、相手投手のクセがびっしりと書き込まれていました。

 さて高井さんといえば、74年オールスター第1戦(後楽園)での代打逆転サヨナラホームランが今も語り草です。

 全セが2対1とリードして迎えた9回裏、1死一塁。ここで全パの監督・野村克也さんは「代打、高井」を告げました。プロ入り11年目、初めて出場した大舞台で巡った来た見せ場でした。

 1死一塁、バッテリーは内野ゴロで併殺を狙う状況です。高井さんは「内角ストレートかシュート」と読み、打席に入りました。

 全セのピッチャーは松岡弘さんでした。初球のボール球を見送った後の2球目、シュート回転のストレートがスーッと真ん中低めに入ってきました。それを強振した高井さんの打球は、超満員の左中間スタンドに吸い込まれました。全パがサヨナラ勝ち、高井さんがMVPに輝きました。

「松岡はカーブを投げるときには左肩が上がる。逆にまっすぐのときは心もち左肩が下がる。で、(2球目を)投げる瞬間、わずかに左肩が下がった。"もろた!"と思った。次の瞬間や、ワシの好きな低めにシュート回転で入ってきた。低い弾道やったんで、まさかスタンドにまで飛び込むとは思わへんかった」

 75年に指名打者制度(DH)が導入されてからは、高井さんはDHでも起用されるようになり、77年にはベストナインに輝きました。プロ通算18年間で2割6分9厘、130本塁打、446打点を残し、阪急の9回の優勝、3回の日本一に貢献しました。

代打の神様誕生

 近年の代打屋といえば、13年に引退した元阪神の桧山進次郎さんの名前が浮かびます。晩年は"代打の神様"とファンに呼ばれていましたが、阪神の4番打者を務めたこともある桧山さんにとって、当初、代打への転向は不本意なものでした。

「ライトのレギュラーとしてやりたい気持ちがあったので、正直納得はしていなかった。ただ生え抜きの岡田(彰布)監督(04年~08年)が若手を育てなきゃいけないという気持ちが強かったこともわかっていた。ここで結果を出さないと仕事がなくなることも承知していたので、(レギュラーにこだわるという)考え方を変えていかなきゃと思いました」

 代打転向後、桧山さんはレギュラー打者との違いに戸惑ったといいます。

「レギュラーで打つときは1打席目、2打席目、3打席目というリズムが大事ですが、代打にはリズムがありません。レギュラーと同じ感覚で打席に立つと、まっすぐがものすごく速く感じて反応できないんです」

 この悩みを救ったのが、先輩の八木裕さんでした。八木さんも桧山さん同様、晩年は代打として活躍しました。

「僕がレギュラー時代に、代打で活躍していた八木さんの練習を見ていたことが役立ったんです。八木さんはバッティング練習のときに2、3歩投手寄りに立つんです。投手との距離を短くして速い球に負けないように、いかにうまく打つか。そういう練習ばかりしていました」

 こうして速いボールにも対応した桧山さんは、通算757回の代打起用で158安打を放ち、111打点を残しました。ともにプロ野球歴代2位の記録です。

 最後に、もう一度高井さんの話を紹介しましょう。

「代打とは?」。私の質問に、高井さんはこう答えてくれました。

「3つのストライクのうちの1球で女房と子供を食わせる仕事だ」

 一振りに生きた代打屋の矜持が感じられます。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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