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二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2016年11月15日(火)更新

FAの光と影。
川崎憲次郎を開幕投手に起用した落合監督の深謀遠慮

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 FA(フリーエージェント)宣言選手が11月10日に公示され、ストーブリーグもいよいよ佳境です。88人の有資格選手のうち、今年は以下の6選手が権利を行使しました。

 山口俊投手(横浜DeNA)、陽岱鋼選手(北海道日本ハム)、森福允彦投手(福岡ソフトバンク)、糸井嘉男選手(オリックス)、岸孝之投手(埼玉西武)、栗山功選手(埼玉西武)。この中で栗山選手は西武への宣言残留を発表しました。残り5選手を巡る各球団の争奪戦に注目が集まっています。

FA市場は巨人中心

 FA制度は1993年オフからプロ野球に導入されました。現在は出場選手登録145日以上を1シーズンとして、合計8シーズンに到達すると(07年以降ドラフト入団の大学生・社会人は7シーズン)国内FAの資格が得られます。

 FAが導入されるまで、長い間、プロ野球選手に「移籍の自由」はありませんでした。47年に「10年間球団に在籍した選手に他球団への移籍を認める」という10年選手制度が導入されましたが、これは75年を限りに撤廃されました。

 FA元年となった93年オフ、4人の選手が権利を行使して他球団へ移籍しました。第1号は松永浩美さん(阪神から福岡ダイエー)でしたが、注目されたのは落合博満さんです。「長嶋監督を必ず胴上げする」と豪語し、中日から巨人へ移籍した落合さんは94年と96年、長嶋巨人の2度のリーグ優勝に貢献しました。

 それ以降もFAを巡るオフの主役は巨人でした。94年オフには広島の左腕・川口和久さんを獲得しました。川口さんは巨人に移籍後、リリーフに転向し、96年の逆転優勝、いわゆるメークドラマでは同じくFA移籍の河野博文さんとともにブルペンを支えました。

 川口さんや河野さんのように、全盛期を過ぎてからも居場所を見つけ、新しい役割を全うする選手がいる一方で、泣かず飛ばずに終わった選手もいます。

 94年オフ、阪神はオリックスから山沖之彦さんを獲得しました。山沖さんは191cmの長身から投げ下ろすストレートとフォークボールを武器に、87年には最多勝のタイトルに輝いた右の本格派です。阪神での活躍が期待されましたが、1軍で一度も投げないまま95年オフにひっそりとユニホームを脱ぎました。昔から引きずっていた肩の故障が原因でした。

 ピッチャーでは山沖さんの他に仲田幸司さんと川崎憲次郎さんが、国内FA移籍後、未勝利に終わっています。

 印象深いのは川崎さんです。彼は00年オフ、ヤクルトから中日へ移籍しました。ヤクルト時代に最多勝1回、沢村賞も受賞している川崎さんを、中日は年俸2億円×3年(4年目は出来高)という破格の条件で迎えました。

「(当時監督の)星野さんのような巨人キラーになりたい」と、入団会見で勇ましく言い切った川崎さんでしたが、移籍後3シーズン、1軍登板は一度もありませんでした。川崎さんは右肩痛に悩まされていたのです。

賭けに勝った落合監督

「大金をもらって働かないなんて仮病じゃないのか?」

 チームの中にはそんな陰口を叩くものもいました。川崎さんは外様ということもあり、微妙な立場に立たされていました。「白黒付けさそう」。そう腹をくくったのが、新監督に就任した落合さんでした。あろうことか、開幕投手に川崎さんを指名したのです。

 これには首脳陣の誰もが驚きました。当時、投手コーチを務めていた森繁和さんは自著の中でこう振り返っています。

<最初のシーズンに実行された監督のアイディアで、とにかく驚いたのは(中略)川崎を「開幕投手にしたい」と言われたことだった>(参謀・講談社刊)

 それまで3年間、全く1軍で投げていないピッチャーを開幕投手に指名するとは、さすが"オレ流"ですが、これには裏付けがありました。

 森さんの回想。「川崎はまだできるのかできないのか。3年投げてないピッチャーが使い物になるのかどうか、それを判断するなら早い方がいい。そういう考えだったんですよ」

 落合さんは年明け早々に川崎さんに「開幕投手」を伝えていました。意気に感じた川崎さんはキャンプ中から精力的に調整に取り組み、4月2日、広島との開幕戦のマウンドに上がりました。

 初回こそ3人で抑えたものの、川崎さんの球威は見る影もありませんでした。2回に5点を失って降板しました。全盛期を知る者にすれば、あまりにも寂しい姿でした。だが、試合は「川崎さんに恥をかかせてはいけない」と発奮した選手たちが逆転に成功し、中日が8対6で勝利しました。落合さんは賭けに勝ったのです。この年、チームは5年ぶりのリーグ優勝を果たしました。

 余談ですが、監督として素晴らしい仕事をしてきた落合さんが、GMに就任してから、コストカット以外で話題にならないのは寂しい限りです。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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