二宮清純コラム プロ野球ガゼット
2017年1月24日(火)更新
”ゲッツー崩し”に新基準。
「緊張感がなくなる」との声も

キャンプインまであと1週間、長いようで短かったシーズンオフも終わりを告げようとしています。開幕に向け、プロアマ合同の日本野球規則委員会では新ルールの採用を決定しました。いわゆる"ゲッツー(併殺)崩し"を狙った危険なスライディングを禁止するルールです。
MLBは1年先行で導入
この新ルールはコリジョンルール同様、メジャーリーグ(MLB)から1年遅れでNPB(日本野球機構)にやってきたものです。コリジョンルールは1年目、その適用を巡り混乱が生じました。新ルールはどうなのでしょう。まずルールの概要から見てみましょう。
ゲッツー崩し禁止についてMLB公認規則にはこうあります。
<ダブルプレーを阻止する目的で野手に接触したスライディングにインターフェアを宣言する。走者はベースの手前でスライディングを開始すること。走者はスライディングの後、手もしくは足がベースについていること。ホームベース以外の塁では走者はスライディング後にベースに留まること><MLB公認規則6・01(j)>
日本の公認野球規則の文言はまだ公開されていませんが、規則委員会では<体全体が塁に向かうこと。野手との接触目的で進路を変えないこと>などを定めるとしています。要はベースに直接向かわず野手の足を払うなど危険なスライディングは禁止ということです。違反した場合には走者だけでなく打者走者もアウトになります。
NPBでは必要に応じてリプレー検証の実施も視野に入れています。キャンプ、オープン戦では危険か否かを巡るスライディングのボーダーラインや審判の判定基準について、チェックが行われると思われます。
昨年、各チームのキャンプを取材したときのことです。どの球団もコリジョンルール対策の守備練習に多くの時間を割いていました。
「ブロックが許されないキャッチャーは手だけでタッチにいくしかない。特にファースト、セカンドからの送球は、従来よりも素早く処理しないとランナーに回り込まれてしまう。ファースト、セカンドは前に守らせる必要がありそうです」
こう語っていたのは巨人の内野守備走塁コーチ・井端弘和さんでした。バックホームを想定した練習で井端さんはノッカーを務め、ひとつのプレーごとに守備位置の確認や選手への指示を出していました。当然、今年のキャンプでは新ルール対策に向けた練習が見られることでしょう。
さてゲッツー崩し禁止の新ルールについて元横浜の高木豊さんに話を聞きました。高木さんは遊撃手と二塁手でベストナインに輝き、二塁手でダイヤモンドグラブ賞を獲得した名内野手です。また盗塁王も1度獲得しています。新ルールについて、野手、走者双方の立場から意見をうかがう上で、これ以上の人はいません。
目的は「ケガ防止」
「僕たち野球選手は小さいころからゲッツー崩しは当たり前という環境でプレーしていました。でも考えてみればおかしな話ですよね。本当ならもうアウトになってプレーする権利のない選手が足払いを狙ってくるんですから。昨年のコリジョンルールもそうですけど、そもそも新ルール以前に守備妨害で対応できていたものなのではないかと思います」
では走者の立場としては、どうでしょう。
「僕は二遊間を守っていたので相手内野手の気持ちが分かるんですよ。やられる方は怖いですよ。だから足を曲げてチョコッと払うくらいしかできなかった。でも外野手は内野手の気持ちが分からないからガンガンと削りにくる。そうすると今度はコーチから"送球で顔面を狙え"と言われるんですが、そんな危険なことはできないですよね。今回の新ルール導入は野球がスポーツ本来の姿に戻るということで期待しています」
現役選手にも話を聞いてみました。福岡ソフトバンクの三塁手・松田宣浩選手です。松田選手はキャッチフレーズの"熱男"の通り全力プレーが持ち味です。
「昨年までは"ゲッツーを防げ""相手の体勢を崩せ"と言われてました。もちろんケガをさせてやろうという気持ちは毛頭ありませんが、最後までどうにかゲッツーを防ごうと全力でした。それが禁止になると走塁の途中で力を抜く選手も増えるでしょうね。ケガのリスクを考えれば新ルールは大歓迎ですが、迫力という面で醍醐味はなくなる気がします。あと野手としては"くるぞ、くるぞ"という緊張感がなくなって簡単にゲッツーがとれるようになる。最初は違和感を持つかもしれませんね」
ケガのリスクが減ることは現場を預かる首脳陣も歓迎しています。阪神で2年目を迎える金本知憲監督はこう語っています。
「ケガが心配だから新ルールはいいことなんじゃないかな。去年のコリジョンルールにしても捕手の体を考えてのことだし、これもいいことだと思う」
概ね、現場の意見は新ルールに対して肯定的なものが多いようです。野手の足元を狙う"ゲッツー崩し"は、もうビデオやDVDなどアーカイブの中でしか見られなくなってしまうのでしょうか……。

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