二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2017年5月23日(火)更新

17:00

阪神、35年ぶりの”敬遠リベンジ”なる!
それでもOB若菜嘉晴「申告制にドラマなし」

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 セ・リーグの首位を走る阪神にラッキーな1勝が転がり込みました。21日、神宮で行われた東京ヤクルト戦です。この試合にも負ければ今季初の4連敗を喫するところでしたが、ヤクルトのジョシュ・ルーキ投手の敬遠暴投により、虎の子の1勝を手にしました。

ブーイングでルーキ動揺?

 ことが起きたのは7回表。2-4とリードされていた阪神はこの回、伊藤隼太選手、高山俊選手、上本博紀選手の連打で同点に追いつきました。3番・糸井嘉男選手は内野ゴロに倒れたものの、なおも2死二、三塁。ここで4番・福留孝介選手が打席に入りました。一打出れば勝ち越しの場面でヤクルトベンチが満塁策、敬遠を指示したのは当然です。中村悠平捕手が立ち上がった瞬間、三塁側を埋めた阪神ファンからブーイングが起きました。

 これに動揺したわけではないでしょうが、マウンドのルーキ選手は明らかに投げにくそうでした。1球目は逆球になるホームプレート寄りのボール球、2球目は中村捕手がジャンプしてようやく捕球しました。そして3球目、窮屈なポジションから投じたルーキ投手のボールは必死でジャンプした中村選手の頭上を遥かに越えてバックネットへ……。大歓声と悲鳴が交錯する中、三塁から高山選手が生還しました。これが決勝点となり阪神が土壇場で勝負をひっくり返しました。

 試合後、ルーキ投手はノーコメントを貫きました。伊藤智仁投手コーチも「ルーキは立ち上がったキャッチャー相手の敬遠がうまくない。2球目を見て座らせた方が良かったかな……」と言葉少なでした。

 思わぬタナボタで決勝点を得た阪神ですが、逆の目に遭ったこともあります。今から35年前の1982年4月3日、横浜スタジアムでの大洋との開幕戦、阪神はエース小林繁さんを立てながら敬遠暴投でサヨナラ負けを喫しました。

 この試合は以前、小欄でも取り上げました。2010年1月に他界した小林さんが生前に残した「ピッチャーはストライクをとる練習はしていても、敬遠の練習はしていないんです」という言葉を紹介しました。今回、改めて小林さんとバッテリーを組んでいた若菜嘉晴さんに話を聞きました。

「あの試合、8回まで2-0、小林は完封ぺースで投げていました。それが9回に雨が降り出した影響から同点に追いつかれて、なおも2死一、三塁。バッターは左の高木嘉一さんでベンチからは敬遠のサインが出ました。ここでマウンドに行って小林に"敬遠するぞ"と念を押したんです。それで立ち上がって1球目を待っていたら、ど真ん中にズバーンときた。慌てて腰を落として捕ったけどびっくりしましたよ。審判もこっちが敬遠するものと思っているから"ボール"とコールしたけど、あれはど真ん中のストライクでした」

敬遠も牽制も苦手だったエース小林

 慌てた若菜さんはタイムをとってマウンドに駆けつけました。「頼むからちゃんと外してくれよ」と再度、念を押しました。だが続く2球目、今度は若菜さんがジャンプしてようやくキャッチできる高めのボールでした。そして2ボールからの3球目、小林投手が投じたボールは外角に大きく外れてバックネットにまで転がりました。

「小林は緩いボールが放れなかったんですよ。ピッチャーゴロもステップしてからファーストにトスしていたくらいです。牽制も上手じゃなくて、プレートを外してランナーを見るくらいだった。本当に緩く投げることが苦手で不器用なタイプでしたね。今になって思うのは、敬遠することが苦手なのはコーチも分かっていたし、どうせ負けるんだったら勝負した方が良かったかな、と。小林も同じ気持ちだったでしょう。そう考えると、あの初球のど真ん中も納得がいくんですよ。あれは"勝負させてくれ"という小林の意地の1球だったんじゃないかって……」

 今シーズンからメジャーリーグでは、申告制の敬遠ルールがスタートしました。守備側が敬遠の意思を明示すれば4球投げなくてもバッターには「テーク・ワンベース」が与えられます。若菜さんはこの新ルールが好きではないそうです。

「そんなの面白くないよ。"敬遠しますよ""はい、了解"で終わったらドラマがなくなるでしょう。サヨナラ負けの当時者だから言うわけじゃないけど、落とし穴がどこにあるか分からない、だからこそ野球は面白い。それって人生と同じじゃないですか」

 57歳で他界した小林さん、故人とバッテリーを組んでいた若菜さんの野球人生は文字どおり、「山あり谷あり、谷底あり」でした。「だからこそ野球も人生も面白い」と言える若菜さんの背中に後光が差しているように感じられました。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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