二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2017年5月30日(火)更新

16:00

10勝1敗、広島と巨人の”カモネギ”関係
されど油断禁物!73年阪急の悪夢

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 30日から始まるセ・パ交流戦を前にセ・リーグでは広島が首位の座を奪い返しました。2位・阪神に0.5ゲーム差をつけ、2年連続リーグ首位で交流戦に臨みます。

巨人をカモって貯金10

 "奪首"を果たしたのは28日でした。この日、巨人を相手に0-2からブラッド・エルドレッド選手の2ランで追いついた広島は、延長10回表、2死二塁から代打・西川龍馬選手のタイムリーツーベースで勝ち越しました。これで対巨人7連勝。対戦成績はついに10勝1敗となりました。貯金10の広島にとって巨人は大のお得意様です。広島にすれば巨人は「カモがネギをしょってくる」ようなものでしょう。

「序盤で先手を取ってもこちらのペースにできていない。負けるにしても少しは考えないと。同じ相手に同じようにやられているのは、どうにかしないといけないのは間違いないんですが……」

 連敗中の巨人・高橋由伸監督はこう語るのが精一杯でした。

 まさか巨人がこのままズルズルと広島に負け続けるとは思いませんが、過去にはこんな例もあります。1973年のパ・リーグ後期、南海は阪急を相手に0勝12敗1分とまったく歯が立ちませんでした。

 このシーズンからパ・リーグは前後期制を採用しました。65試合ずつシーズンを半分に分けて、前後期優勝チームがリーグ優勝をかけてプレーオフを戦うというものです。当時、パ・リーグは阪急の一強状態でした。67年の初優勝から72年まで6シーズンでリーグ優勝5回。阪急の独走でシーズン後半は消化試合が増加しました。客離れに歯止めをかけるために導入されたのが前後期制でした。

 当時、南海を率いていたのが監督兼捕手の野村克也さんです。この年、南海は前期優勝を果たしました。その南海が後期は阪急にひとつも勝てない。多くのファンやマスコミは「どうせ死んだふりやろう」と冷ややかに見ていました。プレーオフに備えて力を出し惜しみしているでは、との疑惑です。だが、実際は違っていました。

「死んだふりや三味線なんてとんでもない。ロッテの金田(正一)監督には"関西同士で八百長やりやがって!"と怒られたもんですが、本当に阪急には歯が立たなかった。山田(久志)、足立(光宏)、米田(哲三)らの強力投手陣に加藤秀司、長池(徳士)、福本(豊)ら大技小技ができる攻撃陣、本当に手強かった。ではなぜ南海が前期優勝できたかといえば、それは阪急の西本(幸雄)監督、ロッテの金田監督がこぞって"65試合は短期決戦"と勘違いしたからです。彼らはいい投手を序盤からつぎ込みました。私は"いやいや65試合も130試合と同じ長丁場"と通常のスタンスを崩さなかった。案の定、阪急もロッテも途中で息切れして、それで前期はうちがいただいたんですよ」

捨てゲームを設定した

 プレーオフは前期優勝の南海と後期を制した阪急で争われました。下馬評は圧倒的に阪急が有利でした。後期、南海には1度も負けていないのですから当然です。だが結果は大方の予想に反して南海が3勝2敗でプレーオフを制し、7年ぶりにパ・リーグ王者となりました。野村さんはプレーオフを勝ち抜くために、いわゆる「捨てゲーム」を設定したといいます。これが功を奏しました。

「5戦で3勝しなきゃいけないとなったとき、全部の試合を勝ちにいくと全部負けちゃうんですよ。それで強弱をつけることにしました。第1戦、そして第3戦、第5戦に勝てばいい、と。第2戦と第4戦は捨てることにしました。しかも大事なのは第1戦、ここで負けたらズルズルと連敗するから、選手には言いませんでしたが"インチキでも何でもして勝ってやろう"と、そんな気持ちで臨みました」

 プレーオフ第1戦、南海は先発にシーズン12勝の西岡三四郎さんを立てました。4-2とリードした後、3回から普段は抑えの佐藤道郎さんにつないで大事な初戦をものにしました。

「大方の予想ではエースの江本(孟紀)の先発でしたが、西岡は気が小さいから最初から投げさせないとダメなタイプだったんです。あの試合は最初から投手全員をつぎ込んでも勝つつもりだったから、西岡が先、そして江本や佐藤を後に残しておいたんです。それくらい大事なゲームでした。で、最初のゲームをとったことで状況が変わりました。阪急は勝って当たり前なものだから、やたらめったら緊張していた。これが南海には良かったんでしょうね」

 野村さんの目論み通り初戦をとった南海は第3戦、第5戦をものにし、パ・リーグを制しました。「あんなに気持ち良く、こっちの思い通りにいったことは野球人生で後にも先にもないですね」。野村さんはニヤリと笑みを浮かべながら、そう語ってくれました。

 かつての前後期制、その後の5戦制のプレーオフとはシステムが異なりますが、現在のプロ野球も日本シリーズ出場権を得るにはクライマックスシリーズを勝ち上がらなければなりません。巨人をカモにしている広島ですが、油断は禁物です。

#文中データは5月29日時点。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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