二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2017年3月21日(火)更新

11:00

”弘法筆を選ぶ”の名手たち
侍ジャパン、V奪回まであと2勝

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 無傷の6連勝で侍ジャパンはWBC決勝トーナメントに進出しました。3度目の世界一まであと2勝です。昨秋、記者会見で小久保裕紀監督は「守り勝つ野球」を標榜しました。それを象徴するようなシーンを紹介しましょう。

グラブ、ヒモ1本のこだわり

 12日、2次ラウンド初戦のオランダ戦です。6-5と1点リードで迎えた7回裏、1死一塁。3番ザンダー・ボガーツ選手の打球は松井裕樹投手の足元を抜けて二遊間へ飛びました。ヒヤッとしたファンも多かったと思います。これを菊池涼介選手が横っ飛びでキャッチし、そのまま二塁ベースカバーの坂本勇人選手にグラブトス。送球は一塁側へやや逸れましたが、坂本選手は体を目一杯伸ばしてグラブに収めました。急造とは思えないほど息の合ったコンビプレーでした。両選手ともグラブをまるで自分の手のように扱っていたのが印象的でした。

 "弘法筆を選ばず"ということわざがあります。"名人はどんな道具でも文句は言わずいい仕事をする"という意味ですが、これは野球選手には当てはまりません。"弘法筆を選ぶ"とでもいうのでしょうか、名手ほどグラブに愛着とこだわりを持っているようです。

 先のファインプレーをアシストした坂本選手は、3年前に井端弘和選手(当時・現巨人内野守備走塁コーチ)から譲られたグラブを今でも使っています。網やヒモが切れても交換して大切に使い続けているといいます。

 今季から埼玉西武の監督を務める辻発彦さんは現役時代、名セカンドとして鳴らしました。ゴールデングラブ賞に8回輝いています。彼ほど"筆"ならぬグラブにこだわった選手はいません。こんな話をしていました。

「グラブの土手の部分、普通ヒモは右から左に通すんですが、それを左から右という風に逆にした。こうすると土手が広くなるんですよ。その他、手のひらのクッション性を高めるためにわざと土手の上を通っているヒモをなくしたり、親指のヒモを2本にしたり、いろいろと工夫しましたね」

 宮本慎也さんにもグラブの話を聞いたことがあります。ショートで6度、サードで4度、計10度のゴールデングラブ賞に輝く宮本さんがグラブを選ぶにあたり、殊の外大事にしたのが手を入れた際の最初の感覚でした。

「野球選手にとってグラブは体の次に大切なものです。自分の手のようなものなんです。いいグラブかどうかは手にはめた瞬間にわかります。閉じたときに捕球面の真ん中にシワが寄ってきそうなグラブはNGです。逆に良いグラブはボールがふわっと芯におさまる。感覚の問題かもしれませんが、僕はこれを大切にしています」

天然芝の守備勘を取り戻せ

 以下は宮本さんの担当だったミズノのグラブマイスター岸本耕作さんから以前聞いた話です。

「キャンプ前に2個ほど新しいグラブを納品します。そのとき、ものすごくドキドキしましたね。ダメ出しの連続で5、6個新たにつくり直したシーズンもありました」

 さらには宮本さんからこんなリクエストもあったといいます。

「"小指を薬指と同じ長さにしてください"というんです。グラブを地面につけたときに小指の部分に隙間ができるから、というのが理由でした。隙間といってもたった5ミリか6ミリなんですよ。宮本さんは"ここからボールが抜ける気がするので"と言うんです。当たり前ですが5、6ミリの隙間からボールが抜けることは絶対にあり得ません。でも"グラブに少しでも不安があってはいけない"と宮本さんは考えていたんですね」

 まさにミリ単位、名手のこだわりが感じられるエピソードです。

 今回、WBC決勝トーナメントは米国のドジャースタジアムで行われます。ここは09年、第2回大会で日本が世界一になった験の良い球場です。人工芝の東京ドームから天然芝に舞台が変わっても、選手たちは普段通りのプレーをしてくれるでしょう。だが準備は大切です。最後に再び辻さんの言葉を紹介しましょう。

「ずっと人工芝に慣れると守備勘が衰えるんですね。僕は現役時代、次が地方球場遠征の場合は土の西武第二でノックを受けて勘を取り戻していました」

 侍ジャパンは日本時間17日にアリゾナ州フェニックスに入りました。決戦を前に当地のスローン・パークでカブス、ドジャース相手に調整試合が組まれています。メジャーリーガーのパワーに慣れる意味でも、重要なエキジビジョンゲームとなります。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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