二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2017年4月11日(火)更新

16:00

BC福島兼任監督・岩村明憲が現役引退
名将・三原、怪童・中西の「なにくそ魂」とは?

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 東京ヤクルトやメジャーリーグのレイズなどで活躍した岩村明憲選手が10日、今季限りでの現役引退を発表しました。独立リーグにあまり興味のない方は「まだ現役でやっていたの?」と驚くかもしれません。今年2月で38歳になった岩村選手は独立リーグの福島ホープス(BCリーグ)の選手兼監督兼球団代表を務めていました。

21年の現役生活

 プロ野球(NPB)、メジャーリーグ(MLB)、独立リーグ(BCリーグ)と活躍の場所を移しながら現役生活は21年に及びました。日米で大きな足跡を残した岩村選手のプロ野球人生を振り返りましょう。

 スタートはヤクルトでした。宇和島東高(愛媛)からドラフト2位で入団し、2年目に1軍初出場を果たしました。00年から正三塁手に定着し、小柄な体に似合わないパワフルなバッティングと俊足、そして好守備でチームを牽引しました。01年は主に6番を任され2割8分7厘、81打点。勝負強い打棒でヤクルトの4年ぶりの優勝と日本一に貢献しました。ヤクルト在籍10年間でベストナインに2度、ゴールデングラブ賞に6度輝いています。

 06年オフ、岩村選手はポスティングシステムを利用して海を渡りました。デビルレイズ(現レイズ)、パイレーツ、アスレチックスに在籍し、レイズ時代の08年にはワールドシリーズにも出場しています。

 その3年後の11年、岩村選手は日本球界に復帰しました。東北楽天と古巣のヤクルトに在籍したあと、15年から新天地の福島ホープスに身を投じました。独立リーグ球団の発足から関わり、初年度後期2位、昨シーズンも前後期2位・年間勝率2位と監督としても手腕を発揮しました。

 10日、東京都内で行われた会見で岩村選手は引退を決意した経緯をこう語りました。

「BCリーグに入った1年目から引き際をどうするかを考えていました。体が動く間は野球がやりたかった。監督として選手を育てていく中で自分の名前が選手の足かせになっているところもあった。トータル的に考えて、今年いっぱいで引退した方がいいかなと結論を出しました」

 さらに岩村選手は続けました。

「18歳でドラフト指名されてから多くの試合を経験させていただきました。思い出の試合をひとつに絞るのは難しく、数試合があげられます。01年のヤクルト優勝、母が亡くなった日(05年8月26日)に試合に出てホームランを2本打ったこと。WBCの世界一(第1回、第2回)の瞬間も大きかった。あとボストンとのアメリカンリーグチャンピオンシップ第7戦も印象に残っています」

 日米通算1585安打、209本塁打、99盗塁。独立リーグでは出場試合数こそ13試合でしたが少ない打数ながら2年間で通算4割5分5厘の数字はさすがです。

 21年間の現役生活、決して追い風ばかりではありませんでした。岩村選手はこれまでに2度、大ケガに見舞われています。1度目はヤクルト時代、03年の開幕戦でした。

 この試合、5番サードで出場した岩村選手は9回に三振に倒れた後、ベンチに帰る途中で手首に「ズキンという鈍い痛み」を感じたと言います。痛みは試合後には帽子を持てないまでに悪化。診断の結果は右手三角繊維軟骨複合体の水平断裂でした。このケガの影響で岩村選手は4カ月、試合から遠ざかりました。

フェンウェイフィールドの大ホームラン

 2度目のケガは09年、MLBのレイズ時代のことです。前年から岩村選手はセカンドにコンバートされ、このシーズンも開幕からセカンドを守っていました。急造セカンドながら無難に守備をこなしていた岩村選手を襲ったのが、マーリンズのクリス・コグラン選手の"殺人スライディング"でした。以下は以前、インタビューした際の岩村選手のコメントです。

「僕の足の甲の上に、滑り込んできた相手の足が乗って、足を引けなくなってしまった。足が引ければ相手をかわして受け身がとれるけど、これでは身動きができない。そのまま相手の体がヒザをどんと直撃したんです」

 その瞬間、直感で大ケガをしたことが分かったと言います。診断の結果はひどいものでした。左足首三角靱帯、左ヒザ前十字靱帯、内側側幅靱帯の損傷……。このときも復活まで約3カ月を要しました。

 どちらも選手生命が危ぶまれるケガでしたが岩村選手は立ち直りました。ヤクルト時代はケガの翌年にチーム史上タイ記録(当時)の44本塁打を放ち、レイズでは復帰戦の翌日にホームランを放っています。

「ケガをしてから野球観が大きく変わりました。野球ができることがどれだけ幸せなことか、それを身をもって体験することができました」

 こう語る岩村選手の座右の銘は「何苦楚魂(なにくそだましい)」です。「何事も苦しむことが楚(いしずえ)となる」という意味で、元々は西鉄や大洋を日本一に導いた名将・三原脩さんが好んだ言葉です。それを愛弟子の中西太さんが受け継ぎ、岩村選手に伝えたというわけです。三原さん、中西さん、そして岩村選手、3人とも四国の出身です。"同郷の誼"もあったかもしれません。

 中西さんは99年からヤクルトのバッティングアドバイザーを務めていました。このときに岩村選手を指導しました。いわば育ての親です。岩村選手はメジャーリーグ時代を振り返り、こう述べています。

<左打者でありながらフェンウェイフィールドでレフトに2発打てたのも、反対方向に角度を上げて遠くに飛ばすことを、ヤクルト時代に教えてもらったから。190センチとか2メートルとかあるヤツらばかりの中で、俺なんか175センチしか身長がない(中略)無差別級で同じ球場を使うわけだから、うまく体を使うことだよね>(日本通運×サムライジャパン応援特設サイト2016年5月9日付)

 中西さんの打撃理論は「太股の内転筋を鍛えろ」が根幹でした。「内転筋の力を利用して軸足にためたエネルギーを前の足に移動させる。前足の着地と同時にエネルギーを爆発させる。それができたから小柄(173センチ)の私(中西)でもボールを飛ばすことができたんです」

 三原さんの人生哲学、中西さんの打撃理論。その両方を受け継ぐ岩村選手です。きっと、いい指導者になることでしょう。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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