薬物で晩節汚したバリー・ボンズ。「30-30」5回の万能プレーヤー【二宮清純コラム】

2024年4月2日(火)更新

15:00

薬物で晩節汚したバリー・ボンズ
「30-30」5回の万能プレーヤー

　ドジャース大谷翔平の打力、走力、身体能力をもってすれば「40-40」（40盗塁・40本塁打）どころか「50-50」も夢ではない、という話を3月5日配信号で書きました。過去において「40-40」はホセ・カンセコ選手＝88年、バリー・ボンズ選手＝96年、アレックス・ロドリゲス選手＝98年、アルフォンソ・ソリアーノ選手＝06年、ロナルド・アクーニャJr選手＝23年と5人が達成していますが、個人的には「50-50」に最も近かったのはボンズ選手ではないか、と考えています。

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父親も名選手

　ボンズさんはパイレーツとジャイアンツで22年間プレーし、通算2935安打、762本塁打、514盗塁など、輝かしい打撃成績を残しています。ホームラン数は歴代最多です。

　父親のボビー・ボンズさんも名選手で「30-30」を5回も達成しています。もうひとりの達成者が息子のバリー・ボンズさん。素晴らしい遺伝子を受け継いだと言えるでしょう。

　余談ですが、現役時代、“和製ボンズ”と呼ばれたのが元広島の山本浩二さん。彼もボビー・ボンズさん同様、右投げ右打ちの走・攻・守三拍子揃った外野手で、そのプレースタイルを、かなり意識していたようです。

　話を息子のバリー・ボンズさんに戻しましょう。彼が「40－40」をマークしたのはジャイアンツ時代の96年、40盗塁・42本塁打での達成でした。

　この頃のボンズさんは打ってよし、走ってよし、守ってよしのオールラウンドプレーヤーで、外野手が必要とする全ての条件を備えていました。

　メジャーリーグで、このボンズさんと初めて対戦した日本人が野茂英雄さんです。95年5月2日（現地時間）、ジャイアンツの本拠地キャンドルスティック・パークでメジャーデビューを果たした野茂さんは、1回裏、ボンズさんに対し四球を与えてしまいます。

　2回目の打席は3回裏、1死2塁の場面。フルカウントからストレートを投じ、レフトフライに打ち取りました。

　この頃のボンズさんは、筋肉質ながら体はシャープで、“ヒットの延長がホームラン”という印象でした。

「なぜ彼らばかり…」

　ところが2001年に73本のホームランを記録し、マーク・マグワイアさんが98年にマークした年間最多本塁打を更新した時の体は、それまでより1回りも2回りも大きくなっていました。

　皮肉なことに、後にマグワイアさんもボンズさんも筋肉増強剤を使用していた疑いが持たれます。MLB機構が正式に筋肉増強剤の使用を禁じたのは04年に入ってからですが、倫理的な責任は免れないでしょう。ボンズさんの場合、06年に実施された薬物検査で、興奮剤のアンフェタミンに陽性反応を示していたことが明らかになりました。

　では、なぜ、「30-30」を5回もマークするほどのオールラウンドプレーヤーが、薬物に手を染めるようになったのでしょう。そこにはボンズさんの、マグワイアさんや、彼と98年に年間最多本塁打記録を巡ってマッチアップを演じたサミー・ソーサさんに対するジェラシーが窺えます。

　マグワイアさんが70本、これまた後に薬物使用疑惑が報じられるソーサさんが66本のホームランを記録した98年、ボンズさんは打率3割3厘、37本塁打、122打点、28盗塁と素晴らしい成績を残したのにも関わらず、話題の中心にいたのはマグワイアさんとソーサさんでした。「なぜ彼らばかりがチヤホヤされるのか」と嫉妬を覚えたとしても不思議ではありません。ならば自分も、と薬物に手を染めたのではないでしょうか。

　仮に薬物を使用していたとしても、73本ものホームランを打つことは容易ではありません。しかし、個人的には余力を残して「30-30」を達成していた頃のボンズさんのほうが好きでした。晩節を汚してしまったことは、かえすがえすも残念でなりません。