二宮清純
二宮清純コラム ノーサイドラウンジCOLUMN
2019年3月7日(木)更新

ラガーマンの誇り
タックルを語ろう

 W杯本番まで、あと6カ月。ジャパンは2月3日に始動し、ラグビーワールドカップトレーニングスコッド(WRCTS)キャンプを東京・町田で4クール、千葉・浦安で1クール実施しました。3月10日からの沖縄合宿を経てニュージーランド遠征に旅立つ予定です。

世界と戦う工夫

 WRCTSキャンプにおけるスキルトレーニングで、ジェイミー・ジョセフHCが選手たちに直接、タックルを指導する場面がありました。ジェイミーHCの伝授するタックルをメディアは<マサカリタックル><稲刈りタックル>と評していました。

 それは、どんなものなのでしょう。タックルは両手と肩をボールキャリアーにぶつけるのが基本ですが、ジェイミーHCが伝授したタックルは相手の後ろ足を片手で狙うというものです。膝裏を掴み、下から突き上げるようにして押し倒すコツを教えていました。定石通りのタックルは、確かにうまくヒットすれば相手の勢いを止めることができます。だが、スルリとかわされれば、突破を許すリスクもあります。その点、片手のタックルなら、仮に失敗しても、もう片方の手ですぐに立ち上がれるというのが指揮官の考えです。

 過日、46歳まで現役を続け、フランカー、ナンバーエイトとして1999年、2003年と2度のW杯に出場した伊藤剛臣さんと話す機会がありました。「タックルができなければ、味方に信用されない」というのが伊藤さんの持論です。

「いくら上手くても、強くても、速くても、タックルができなければ試合に出られない。出たとしてもチームを勝利に導けないんです」

 体力や体格で外国勢に劣るジャパンは、世界と伍するために独自の方法でタックルのスキルを磨いてきました。その一つのハイライトがスコットランド代表を撃破した89年5月のテストマッチです。30対24。これは国際ラグビーフットボール評議会(IRFB。現ワールドラグビー)所属のチームにジャパンが勝利した初めての試合としても有名です。

 奇跡の背景にはジャパンの戦士たちの低く、速く、鋭いタックルがありました。当時高校生だった伊藤さんの脳裏には、今もフランカーの梶原宏之さんの鬼気迫るタックルがこびりついています。

「梶原さんは膝から下目がけてタックルにいき、面白いように相手を倒していました。これこそが、日本人が海外のデカイ選手に対するタックルなんだ、と。僕のタックルは、この時の記憶が元になっているんです」

「気持ちのいいタックル」

 タックルは義務ではなく、喜びなのだ――。これも伊藤さんの持論です。

「そりゃ怖いですよ、相手は加速をつけて走ってきますから。でもチームのピンチを救うタックルが決まった時は、本当に気持ちがいい。ラガーマンとしての喜びを感じることができるんです」

 では、タックルを受ける側はどうなのでしょう。ジャパンの名ウイングとして鳴らした吉田義人さんは、タックラーにとっては格好の標的でした。受けて気持ちのいいタックルと、そうでないタックルがあるという感です。

「レベルの高いチームの選手のタックルは、こちらも“参りました。ナイスタックル!”と素直に思えるんです。敵ながらあっぱれ、ということでしょう。ところが、意識の低いチームとやると、想定外の方向からタックルを仕掛けてくる者がいるので、怪我に結びつきやすい。実際、大学時代には腕に頭から突っ込んでこられて、ケガをしたこともあります。逆にトップ選手のタックルは、どんなに強力でもきれいに入るので、むしろ心地良いくらいです」

 そんな吉田さんが最も衝撃を受けたのが、オーストラリア代表のイアン・ウイリアムスさんから受けた「アンクルタックル」だったそうです。ウイリアムスさんといえば、神戸製鋼を全国社会人ラグビー3連覇に導いた約50メートルの独走トライが忘れられません。アンクルタックルはアンクルタップとも呼ばれ、手でボールキャリアーの踵を払うようにして倒す“裏技”です。

 吉田さんの回想――。

「僕の日本代表デビューとなったオックスフォード大学との試合です。僕は当時19歳の大学2年生でしたが、そんなタックルの技術があることすら知りませんでした。走っている時に踏み出した足が接地する瞬間、当然もう一方の足は地面から離れていますよね。その後方にある足を手で払われたんです。足が絡まって転倒した。これがアンクルタックルでした。最初はいったい何が起こったのかわからなかった。いつもなら完全に相手を置き去りにした時点で、簡単にトライを取れていたはずです。ところが“抜けた! もらった!”と思った瞬間、あろうことか自分が転んでいたんです。このプレーによって世界レベルを痛感することができました。当時、ウイリアムスは現役バリバリのオーストラリア代表でした」

 タックルこそは“ラグビーの華”です。そしてラガーマンの誇りです。熱っぽく語り続ける伊藤さんと吉田さんでした。

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