第59回全国大学ラグビーフットボール選手権大会で2年連続11度目の優勝を果たした帝京大学。相馬朋和監督は就任1年目で国立競技場の宙を舞いました。OBで元日本代表FWでもある相馬監督に勝因と今後の展望について話を聞きました。
――1月8日に行われた早稲田大学との大学選手権決勝は73対20で圧勝しました。この試合であげた11トライ、73得点、53点差はいずれも決勝での最高記録でした。後半はほぼワンサイドゲームとなりましたが、前半は先制しながら2トライを奪われ、一時は7対12と逆転されました。
相馬朋和: 早稲田の大田尾(竜彦)監督は帝京に対し、必ずいい準備をしてくるだろうと思っていました。実際、その準備したプレーで点を取られました。ただ帝京はいい形で先制のトライが取れた。難しい試合にはなるだろうけど、勝機は十分にあると思っていました。
――その後に逆転し、前半を28対12で終えました。2トライ2 ゴールでも追いつかれない安全圏かと?
相馬: いえいえ。早稲田はバックスにスピードもスキルもあるタレントが揃っています。準決勝では京都産業大学との点の取り合い(34対33)を制していますので、30得点以上をあげ、4トライ4ゴール以上開いていないと安心はできません。極端に言えば、ノーサイドの瞬間までは安心できなかったというのが正直なところです。
――後半はほぼワンサイドの展開に見えましたが……。
相馬: 局面局面で危ないシーンが数多くありましたが、帝京の学生たちの反応が早稲田を上回っていた。ただスコアほどの差があったとは全く思っていません。学生たちが80分間、目の前の一瞬一瞬を大切に積み重ねた結果だと思っています。
――接点の強さ、一歩目の速さで早稲田を圧倒していたように見えました。
相馬: そうですね。フィジカルの部分は我々の最大の強み。時間をかけて取り組み、こだわってきた成果が出ました。
――スクラムに関しては100点に近い出来だったのでは?
相馬: 私は試合に勝った時点で学生たちには100点満点をあげたい。試合に勝つ、試合に影響を与えられるスクラムを常に目指してきました。試合を通して早稲田にプレッシャーをかけることができていたと思っています。
――スクラムを組む前にフランカー奥井章仁選手が「TEIKYO GANZ!」と叫んでいたのが印象的でした。
相馬: 自分たちでスイッチを入れる合言葉ですね。その時々の学生たちが、スイッチの入りやすい言葉を選び、声掛けをしているんだと思います。その言葉選びは学生たちに任せています。
――勝利を確信したのは?
相馬: キャプテンの松山(千大)を下げる判断をしたあたりは、もう負けることはないと感じていました。ただ先ほど申し上げたように、試合終了の笛が鳴るまでは安心できません。ノーサイドの瞬間、ようやく「良かった。勝てた」と安堵しました。
――昨年の大学選手権決勝直後に岩出雅之さんが監督勇退を発表しました。いつ頃後任に指名されたのでしょう。
相馬: 私が知ったのは決勝戦が始まる週のはじめです。
――本当に直前だったわけですね。
相馬: 10年ぐらい前からOB、コーチとして帝京に関わり、次期監督について、岩出先生と2人でよく話していました。私は「勝つ文化を知る子たちが、大学に帰ってきて、文化を継承していくのがいいと思います。だから私が一番ふさわしくないと思います」と正直に述べました。というのも私が入学したのは岩出先生の監督就任1年目。在籍した4年間、大学選手権での優勝は一度もありません。どうやってチームが勝ってきたかを経験してきていない私に監督の資格はない。帝京の伝統が壊れてしまうと思ったんです。
――後継者が一番にやるべきことは、何を変えるか、何を守るか、その仕分け作業です。帝京は岩出監督でうまくいっていた。必然的に継続することの方が多くなります。
相馬: 私は岩出先生がいなかったら成長できなかった。先生がつくりあげたものを次の世代に渡していくことが使命だと思っています。1年目を終えてみて、変えてはいけないものを変えていなかったかどうか。それを振り返っている最中です。
――岩出イズムを継承すると?
相馬: その通りです。岩出先生は「伴走」とおっしゃっていますが、今でも横で支えてくださっています。よく「1年目で優勝すごいですね」と言われますが、私が監督1年目なだけで、このチームは何も変わっていません。帝京のスタッフの皆さんも献身的。彼らの努力を見逃さないようにいつも目を配っています。帝京は「環境が充実している」などと、“モノ”に焦点が当たりがちですが、強さを支えているのは“人”だと思っています。
――決勝後の会見で「自分自身が成長していかないといけない」と、おっしゃっていました。
相馬: 足りないところばかりだと思っています。僕自身の考え方から変えていかないといけない。その前にまずは痩せようかと?
――年齢以上の貫禄がありますよ(笑)。
相馬: それも限度があると思います。岩出先生は「(監督を)2、3年という短い期間ではなく20年を目指してほしい」とおっしゃいましたが、今の体型ではそんなにもちませんからね(笑)。
(後編につづく)
<相馬朋和(そうま・ともかず)プロフィール>
1977年6月5日、神奈川県出身。現役時代のポジションはプロップ。東京高校でラグビーを始め、3年時に高校日本代表に選ばれた。帝京大学を経て、埼玉パナソニックワイルドナイツの前身・三洋電機に入社。2005年11月のスペイン代表戦でジャパンの初キャップを獲得。07年W杯フランス大会に出場するなど通算24キャップ。パナソニックのスクラムコーチ、ヘッドコーチを経て、21年秋に帝京大のFWコーチに就任。22年春、監督に就き1季目でチームを大学日本一に導いた。
データが取得できませんでした
以下よりダウンロードください。
ご視聴いただくには、「J:COMパーソナルID」または「J:COM ID」にてJ:COMオンデマンドアプリにログインしていただく必要がございます。
※よりかんたんに登録・ご利用いただける「J:COMパーソナルID」でのログインをおすすめしております。