W杯フランス大会開幕まで、あと2年を切りました。ジャパンは10月23日、4年ぶりにオーストラリア代表と昭和電工ドーム大分で対戦しました。世界ランキング3位の強豪相手に残り2分まで4点差、あわや金星というところにまで迫りましたが、結局23対32で敗れ、オーストラリア戦初勝利には届きませんでした。しかしメディアには「善戦」の2文字が躍っていました。
惜敗の中で、特に光ったのが3年ぶりに「10番」を背負った松田力也選手です。3本のプレースキック(2PG、1G)を決めて8得点。さらにはトライを演出するキックパスもありました。
最大の見せ場は前半26分です。敵陣深く攻め込み、中央付近で帝京大の2年先輩、スクラムハーフ流大(ながれ・ゆたか)選手からパスを受けると、迷わず手薄な右サイドへピンポイントのキックパス。これをキャッチしたウイングのレメキ・ロマノ・ラヴァ選手がひとりをかわし、インゴール右隅に飛び込びました。
ジャパンの連続攻撃により、中央に寄ってきた相手ディフェンスの隙を突き、大外を狙う理想的なアタックでした。ただ松田選手がボールを持った際、アドバンテージはもらっておらず、ミスパスになればボールを失うリスクもありました。それでも松田選手は「外からいいコールがあった。自分のスキルを信じた」とためらわずに右足を振り抜きました。直後に右隅からの難しい角度のコンバージョンキックも決め、10対14と1トライで逆転できる点差にまで詰め寄りました。スタジアムがこの日、いちばん沸いた瞬間でした。
後半8分、フルバックのセミシ・マシレワ選手の負傷交代により、32歳の田村優選手がスタンドオフに入ると松田選手はフルバックにポジションを移しました。予期せぬアクシデントにも別のポジションでチームに貢献できる松田選手の万能ぶりは、指揮官にとってありがたい存在です。
さて、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)の目に松田選手のプレーはどう映ったのでしょうか。
「力也のパフォーマンスは良かった。ボールを持って仕掛け、クロスキックも良かった。彼の成長が見られたと思います」
実は松田選手、4年前のオーストラリア戦でもスタンドオフでスタメンに名を連ねました。だが目立った活躍はなく、チームも30対63とダブルスコアで敗れました。
「あの頃の僕は若く経験も浅かった」と松田選手。しかし歳月は人を育てます。
「あれからいろいろな経験をすることで、今回は落ち着いてゲームを進めることができた。成長できているんじゃないかと感じています」
彼の成長ぶりは、最後のシーズンとなった今年のトップリーグ(TL)でも感じ取ることができました。スタンドオフとして7試合中5試合で先発出場を果たし、プレーオフトーナメントに入ってからも4試合全てで司令塔役を担いました。パナソニックワイルドナイツ(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)の5季ぶりのリーグ優勝は彼の成長なくしてはあり得なかったでしょう。
「次のW杯に出る力は十分にある。W杯で10番を担うに相応しいプレーヤーであることを示してくれた」
プレーヤーとしてピークを迎えつつある27歳をそう称えたのは、チームのロビー・ディーンズ監督です。オーストラリア代表、スーパーラグビーのクルセイダーズ(ニュージーランド)のHCを歴任した名将の言葉だけに重みがあります。
話をジャパンに戻しましょう。ジョセフHC体制になってからの司令塔は田村選手でほぼ固定されています。2019年W杯日本大会は全5試合でスタメン出場を果たし、リーダーグループの一員として初のベスト8進出に貢献しました。傑出した戦術眼と多彩なゲームメイクで、今なおジャパンにとっては“余人をもって代え難い”選手です。この6、7月のヨーロッパ遠征でもジャパンの「10」を背負ったのは田村選手でした。翻って松田選手、ヨーロッパ遠征でのブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦は出番なし、アイルランド戦は途中出場でした。
ポジション争いの激化によるチームの底上げは、今の時期、いちばん必要なことです。切磋琢磨によりもたらされる果実を楽しみに待ちましょう。
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