二宮清純
二宮清純コラム ノーサイドラウンジCOLUMN
2019年2月21日(木)更新

ジャパン支えるブラウニーの
「異次元頭脳」とタフガイ伝説

 W杯シーズンのスーパーラグビーが開幕しました。日本チームのヒト・コミュニケーションズ サンウルブズは16日、シンガポールで開幕戦を行い、南アフリカのシャークスに10対45で敗れました。スーパーラグビーは6月まで全16戦が予定されています。全15チーム中上位8チームが決勝ラウンドに進みます。

「イノベーティブ」

 開幕戦の指揮はスコット・ハンセンAC(アシスタントコーチ)に譲りましたが、サンウルブズのHCはジャパンのACを務めるトニー・ブラウンさんです。昨年10月のHC就任会見では「イノベーティブなラグビーをする」と抱負を述べました。「イノベーティブなラグビー」とはどういうことでしょう。ブラウンさんの説明はこうです。

「素早く、スキルフルにボールを動かす。ファンの方に楽しんでもらい、かつプレーヤーたちが楽しめることが大事。そして、試合に勝つこと。これらがポイントだと思っています」

 ブラウンさんは現役時代、「スキルフル」なスタンドオフとして鳴らしました。ニュージーランド代表18キャップを誇り、日本では2004年から三洋電機(現パナソニック ワイルドナイツ)で7シーズンに渡ってプレーしました。引退後は指導者となり、15年にはジェイミー・ジョセフ HCの右腕としてニュージーランドのハイランダーズをスーパーラグビー優勝に導きました。16年秋からはジャパンのACと兼任で指導に当たっていました。一昨年のスーパーラグビー終了後、ハイランダーズからは離れ、昨年からサンウルブズのAC、今年からはHCに就任しました。ジェイミージャパンのキックを多用してスペースを突く戦術は、ブラウンさんの攻撃思想がベースにあります。

<「体の大きなチームは体格差で圧倒してくるから、日本は試合を速いテンポにしたい。そのために攻撃ではスピードを上げ、(キックなどで互いの陣形の乱れた)アンストラクチャーの状態を増やしたい。(パス主体の)攻撃ラグビーとキックを使ったラグビーを組み合わせ、バリエーションのある戦い方もしたい」>(「日本経済新聞電子版」 2017年11月9日)

 ジャパンの選手たちは、ブラウンさんの志向するラグビーをどう考えているのでしょう。例えばスクラムハーフの田中史朗選手の意見はこうです。

「付き合いが長いので、ブラウニーの考えはある程度分かりますけど、まだまだです。今でも怒られますし、彼はちょっと次元が違う賢さですから。それはハイランダーズの選手も言っていました」

 三洋電機でともにハーフ団を構成し、その後パナソニックやハイランダーズで指導を受けた田中選手の意見だけに説得力があります。

 異次元なのは頭脳だけではありません。ブラウンさんは根っからのタフガイです。彼が三洋電機でプレーしていた時期、監督を務めていた飯島均さん(現パナソニック部長)は「あれだけ泥臭いスタンドオフはいなかった」と語っていました。

逆境に強い男

 こんなエピソードがあります。08年10月、ブラウンさんは試合中に受けたタックルが原因で入院生活を余儀なくされました。診断は外傷性膵炎でした。

 飯島さんは振り返ります。「彼は痛みに強い男です。それでも外傷性膵炎の時は、本当にどうなることかと心配しました。外傷性膵炎は交通事故でまれに起きるもので、外からの激しい圧力によって膵臓から消化液が漏れ出して、膵臓自体や臓器を溶かしてしまう。彼は最初、“腹が痛い”と言っていたのですが、どうも様子がおかしいということで病院に行くと、胃、胆のう、十二指腸、腸の一部と膵臓を取って洗浄しなくてはいけない状況でした。夜中に緊急手術をしましたが、ドクターからは“生きているほうが不思議だ”と驚かれました。普通の人間ならショック死する状態だったそうです」

 さらに飯島さんは続けました。

「当初、ドクターからは“ラグビーはもちろん、完治するのも難しい”と言われていました。食事を摂れば膵臓から消化液が漏れ出すので何も食べられない。腸に管をつけて、直接栄養を入れていました。手術から2カ月間で一気に12、13キロ痩せましたね。ところが、その3カ月後、トップリーグのプレーオフ決勝には、ドクターに“オレは出る”と告げ、ドクターストップを振り切ってピッチに立ったんです。彼は生きるか死ぬかという手術を受け、目が覚めた瞬間、“あぁ、ラグビーの試合をした夢を見た”と言ったんです。ラグビーをやるために生まれてきたような男なんです」

 奇跡的にピッチに戻ってきたブラウンさんは、日本選手権では主にリザーブとして活躍しました。サントリーサンゴリアスとの決勝では、後半14分、3対9とリードされた場面で登場、劣勢を挽回するプレーをいくつも披露しました。 後半25分には自陣でこぼれ球を奪うやいなや、素早く展開してビッグゲインに繋げたのです。結果、三洋電機は24対16で勝利し、日本選手権連覇を達成しました。ブラウンさんの執念が光った試合でした。

 そのブラウンさん、サンウルブズでの目標を「ひとつひとつの試合を勝ちに行く」ことに置いています。参入1年目は1勝、2年目は2勝、3年目は3勝とひとつずつ白星を上積みしているサンウルブズ。今季はW杯イヤーだけに大きな飛躍が望まれます。「普通、人間は悪い状況に陥ると落ち込みますが、彼の場合は逆にアドレナリンが出るみたいなんです」とは飯島さんの弁です。どんな采配を見せてくれるのか、大いに楽しみです。

K.Ninomiya二宮清純
2019年12月12日(木)更新
プロ化は「総論賛成、各論反対」
「独裁者」川淵三郎に学ぶ突破力
2019年12月5日(木)更新
「ONE TEAM」がラグビー界初の流行語大賞に
4年前、内定の「五郎丸」が“落選”した理由
2019年11月28日(木)更新
サンウルブズ、日本人首脳陣で発進
世界を相手に“やってみなはれ!”
2019年11月21日(木)更新
清宮副会長が描く「プロリーグ構想」
プロ化のリスクと“しなかった”リスク
2019年11月14日(木)更新
廣瀬俊朗が語る「激闘の44日」
「南アフリカには強い芯があった」
2019年11月7日(木)更新
ラグビー列島と化した44日間
「最も偉大なW杯」の余熱利用
2019年10月31日(木)更新
NZ倒した周到なエディーマジック
イングランド4大会ぶりVなるか
2019年10月24日(木)更新
制空権を握られ、南アに完敗
次なる課題はラインアウト
2019年10月17日(木)更新
加速する“Wフェラーリ”
南アの防御網を切り裂け
2019年10月10日(木)更新
リーチ支えるラピース
「ワンチーム」の輝き
2019年10月3日(木)更新
アイルランド戦勝利の陰の立役者
長谷川慎コーチは“スクラム技師”
2019年9月26日(木)更新
NZ“生ハカ”のど迫力!
和製ハカを作るとしたら
2019年9月19日(木)更新
ラグビー100年の大計
母親、女性を“身内”に
2019年9月12日(木)更新
釜石の成功こそがW杯の成功
松尾雄治、“釜石愛”を語る
2019年9月5日(木)更新
ビールグラスは左手で!
紳士のスポーツのマナー
2019年8月29日(木)更新
トンガはナンバーエイト王国
「神様からの贈り物」マフィ
2019年8月22日(木)更新
W杯で地域振興と国際交流を
キャンプ地自治体、期待と不満
2019年8月15日(木)更新
“ブライトンの奇跡”生んだ
乾坤一擲のサインプレー
2019年8月8日(木)更新
万能型バックス松島幸太朗
世界が驚く「Xファクター」
2019年8月1日(木)更新
ラグビーの「資源」を「資産」に!
ソーシャル・イノベーション計画
2019年7月25日(木)更新
W杯のダークホース・アルゼンチン
「この10年で最も進化したチーム」
2019年7月18日(木)更新
7人制、東京五輪で表彰台へ
猛暑も「備えあれば憂いなし」
2019年7月11日(木)更新
ジャパン、新戦闘服で初陣へ
機能性と視覚効果にこだわり
2019年7月4日(木)更新
ラグビー協会、若返り人事発表
「助さん、格さん」で攻めの改革
2019年6月27日(木)更新
サンウルブズの誤算と収穫
ジャパンとの連携に課題も
2019年6月20日(木)更新
W杯ロシアは縁起のいい相手
暑さを味方に「走らせろ!」
2019年6月13日(木)更新
W杯本番まで100日
宮崎合宿スタート!
2019年6月6日(木)更新
“地獄の宮崎”で
「ワンチーム」に!
2019年5月30日(木)更新
新世界大会実現に向け
試される日本の交渉力
2019年5月23日(木)更新
「鉄と魚とラグビーのまち」
釜石に大漁旗がはためく日
2019年5月16日(木)更新
「足で稼ぐ」松田力也
「田村優に対抗できる」
2019年5月9日(木)更新
三洋電機、TL初優勝秘話
「無口な男」の最後の熱弁
2019年4月26日(金)更新
<ジャパン激闘史④>
ライバルこそ成長の糧
海外挑戦のパイオニア
2019年4月25日(木)更新
対立をエネルギーに!
舞台裏のトークバトル
2019年4月18日(木)更新
W杯の借りはW杯で返す
運命のスコットランド戦
2019年4月12日(金)更新
<ジャパン激闘史③>
オーストラリアで咲いた
ブレイブ・ブロッサムズ
2019年4月11日(木)更新
トライゲッター山田章仁
新天地でV!33歳の挑戦
2019年4月4日(木)更新
世界に通用するスクラム
長谷川コーチの“職人魂”
2019年3月29日(金)更新
<ジャパン激闘史②>
W杯初勝利を呼んだ
宿澤監督の「偵察力」
2019年3月28日(木)更新
アイルランドの弱点
「セクストンを潰せ」
2019年3月22日(金)更新
<ジャパン激闘史①>
「ブライトンの奇跡」秘話
正座が生んだ最適スクラム
2019年3月21日(木)更新
ジェイミー・ジャパンに
グレイシー柔術式トレ
2019年3月14日(木)更新
NZがやってくる!
大分の“おもてなし”
2019年3月7日(木)更新
ラガーマンの誇り
タックルを語ろう
2019年2月28日(木)更新
存在感示した中村亮土
「夢の舞台」への条件
2019年2月21日(木)更新
ジャパン支えるブラウニーの
「異次元頭脳」とタフガイ伝説
2019年2月14日(木)更新
ジャパン復帰への布石か!?
トモさん、サンウルブズ入り
2019年2月7日(木)更新
“再建人”清宮克幸
新たなるミッション
2019年1月31日(木)更新
脱エリートの心意気
代表復帰狙う藤田慶和
2019年1月24日(木)更新
トップリーグ総括
カップ戦導入の意義
2019年1月17日(木)更新
明大日本一とW杯大金星
共通する“裏方”の存在
2019年1月10日(木)更新
誰もが認めるリーダー
主将リーチ・マイケル
2018年12月27日(木)更新
日野「街の誇り」をかけた戦い
地域密着でトップリーグに新風
2018年12月20日(木)更新
ジャパンへの登竜門・TL新人賞
トライゲッター岡田優輝の「嗅覚」
2018年12月13日(木)更新
成長を求めた神戸製鋼移籍
代表「激戦区」に挑む日和佐
2018年12月6日(木)更新
ジャパンの命運握るSO田村優
引き出しの多さで世界に挑む!
2018年11月29日(木)更新
ジャパンの2018年を振り返る
レフェリー分析が目標達成のカギ
2018年11月22日(木)更新
イングランド戦、後半失速の理由
指揮官に求められる「カード捌き」
2018年11月15日(木)更新
帝京大、対抗戦V8に王手
カギ握る竹山晃暉のキック
2018年11月8日(木)更新
現代ラグビーのキーワード
「オフロードパス」の極意
2018年11月1日(木)更新
11.3最強軍団オールブラックス戦
ジャパンよ、躍進のヒントを掴め!
2018年10月25日(木)更新
“生ける伝説”ダン・カーター
「平成最後の冬」を堪能しよう
2018年10月18日(木)更新
“スパルタ”から“自立を求める”指導へ
W杯ベスト8に挑むジェイミー・ジャパン
J:COM ラグビーガイド
PageTop

J:COMへのお申し込み

特典・キャンペーン

特典・キャンペーン

個別サービスのお申し込み

資料請求

加入申込

サービス追加・変更

料金シミュレーション

問い合わせ