二宮清純
二宮清純コラム ノーサイドラウンジCOLUMN
2020年11月12日(木)更新

W杯の舞台に日本人レフリーを
タレント発掘プロジェクト始動

 日本ラグビー協会は10月30日、レフリー発掘プロジェクトの実施を発表しました。狙いは将来、国際舞台でレフリーとして活躍できるタレントを発掘することです。既に11月1日から応募は始まっています。元プロレフリーで、現在は日本協会の技術部門で後進の育成に尽力している原田隆司さんに話を聞きました。

日本人レフリーの課題

――10月末に発表されたレフリー発掘プロジェクトの立ち上げの経緯を教えてください。

原田隆司:協会としてレフリーを育てる活動は、W杯日本大会が開催決定した時点で進めていました。“W杯大会に日本人レフリーを立たせたい”という思いを持っていましたが、実際には久保(修平)くんがアシスタントレフリーに選ばれただけでした。

――それだけ世界のレベルが上がってきたと?

原田:そうですね。かつては開催国・地域に1人は割り当てられていのですが、実力でセレクションしていくことに変わってきたことも理由にあると思います。近年、日本代表チームの活躍が目立つ中、W杯を任される日本人レフリーを育てなければいけないという思いが強くなっていきました。インターナショナルレフリーの発掘、育成を行うために審判部門TIDプログラムを実施してきましたが、まだ僕らの目の届かないところにも優れた人材はいるかもしれない。その人たちにも入り口を提供すべきということから公募形式のプログラムを始めました。

――反響はどうでしょう?

原田:WEBのエントリーフォームには現時点(11月上旬)で40件以上の応募がありました。ある大学からは「レフリーをやりたい選手がいるので応募させようと思っています」という声もいただきました。まだ応募には至っていなくても、このプロジェクトに関する問い合わせが数多く届いていますし、多くの関心を得られていると実感しています。

――日本人レフリーに足りないものは?

原田:ワールドラグビーからもテクニカルな部分では全然問題ないという評価をいただいています。その一方で、W杯を裁くには国際的な経験だったり、ゲームをマネジメントする能力が足りないことが指摘されています。

――そのためには必要なものとは?

原田:レフリー育成において、海外の方向性は大きくふたつに分けられます。ひとつはトッププレーヤーからの転身。W杯日本大会でレフリーを務めたオーストラリアのニック・ベリーは、スーパーラグビー(SR)のレッズなどでプレーしていた選手です。オーストラリア協会は彼を16年からSRレベルのレフリーとして強化し始め、3年後にはW杯本大会で笛を吹くまでに成長しました。

――もうひとつの方向性は?

原田:若い世代を育てることです。例えばニュージーランドは日本大会でレフリーを担当したベン・オキーフ、アシスタントレフリーのブレンドン・ピカリルに20代の頃からSRの試合で笛を吹かせていました。若いうちからインターナショナルレベルの試合を経験させることで、レフリング技術が磨かれる。フランスは大学生の時期からU-19、U-21の世界大会に派遣し、国際的なレフリーを国策的に育てています。一方、日本はC級、B級、A級と段階を踏み、国際的に活躍するレフリーを育てていくやり方でした。しかし、この方法ではどうしても時間がかかってしまう。

――現役プレーヤーの転身というケースでは、トヨタ自動車ヴェルブリッツの滑川剛人選手が昨年より日本協会がインターナショナルレフリーを育成する「審判部門TIDプログラム」に参加しています。

原田:僕はレフリーを引退する以前からSRのレフリーコーチとしてキャンプやカンファレンスに参加していました。そこで先ほどのニック・ベリーという元トッププレーヤーのレフリーが出てきていることを知り、トップリーグ(TL)のチーム関係者に「現役選手でレフリーをやりたいという選手はいませんか?」と声を掛けていたんです。そんな中で滑川くんが興味を示してくれました。

――現役トップリーガー第1号ということで、メディアにも取り上げられていました。

原田:そうですね。彼が挑戦をしてくれたことにより、レフリー転向という選択肢もあることを知ってもらえた。TLのある若手選手からは「僕も興味があります」と声を掛けてもらうようになりました。今後は他チームからの希望者も増えてくると思っています。

「必要なのは人間力」

――原田さんが考えるレフリーに必要な資質とは?

原田:僕らは人間力と呼んでいます。コミュニケーション能力、ゲームを読む力、いろいろなことに気付ける力……。もちろんフィットネス、ルールへの理解も必要ですが、W杯のレフリーには競技規則通りに笛を吹くだけではなく、状況に応じた判断をすることが求められます。プレーヤーから試合を裁いてもらいたいと思わせるような説得力が大事になってくると思います。

――滑川選手はどうでしょう?

原田:ラグビーの理解力、人間力は非常に高いと思っています。彼はプレーヤーを納得させる笛が吹ける。ここ数試合、大学の高いレベルでの試合を任せましたが、高いレベルになればなるほどプレーヤーを納得させる力があると感じています。

――滑川選手は現在30歳。さらに若い世代を育てていくことも必要でしょうね。

原田:もちろんTIDでは滑川選手以外に2人の若いレフリーをターゲットにしています。レフリーの素質がある選手に高いレベルのコーチング、試合を経験させて海外にも派遣するシステムを考えています。7人制ラグビーにも1人有望な若手レフリーがおり、彼は15人制にもチャレンジするかもしれません。彼ら4人には日本協会のレフリーコーチをつけ、指導していくプログラムを提供しています。加えて、各支部には高いレベルの試合を担当できるように要請しています。

――昨年の花園では初の女子レフリーが誕生しました。女子レフリーのレベルも上がってきているのでしょうか?

原田:実は女子にタレントが少ないことが課題なんです。今回のレフリー発掘プロジェクトは女子レフリーの発掘が大きなミッションとなっています。7人制ではありますが、現状、東京オリンピックの試合を裁く日本人女子レフリーが選ばれない可能性がある。次のパリオリンピックを見据え、女子を育てたいという思いは強くあります。

――今後の目標は?

原田:まずは世界に進出するレフリーのパスウェイをつくること。そしてブランド力を上げることです。今、日本代表はテレビでも取り上げられるなどすごく注目され、ラグビー選手を目指す子供たちも増えてきています。レフリーもみんなに憧れられる存在にならないといけない。少年少女や若いラグビー選手から「レフリーになりたい」と思われるように、レフリーが注目され、リスペクトされる環境をつくりたいと考えています。

――2022年1月にはTLに代わり、新リーグがスタートする予定です。この機会をレフリーのブランド力を上げるきっかけにしたいと?

原田:そうですね。代表が強くなってきている中、レフリーもレベルアップしていかなければならない。その使命感を持ち、僕たちも新リーグの誕生で日本ラグビー界が変わっていく流れに乗っていかなければいけません。W杯日本大会でレフリーを輩出できなかった反省を生かし、レフリーのブランド力を飛躍させたい。今後もいろいろな手を打ちながら、世界で活躍できるレフリーを育てていきたいと思っています。

<原田隆司(はらだ・たかし)プロフィール>
1967年7月27日、大阪府出身。大阪・北野高、大阪教育大時代はラグビー部に所属し、スタンドオフやフルバックでプレーした。卒業後は大阪市内の小学校で教諭として勤務。24歳でC級資格を取得し、レフリーの道へ進む。40歳で教諭を退職し、プロレフリーとなった。48歳で現役を退くまで第一線で活躍した。現在は原田闘球審判合同会社代表、日本ラグビー協会技術委員会審判部門ハイパフォーマンスレフリーマネージャーとして後進の育成に尽力している。

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