さる1月8日に東京・国立競技場で行われた全国大学選手権決勝は、前年度王者の帝京大学が早稲田大学に73対20で圧勝し、2年連続11度目の優勝を達成しました。この試合であげた11トライ、73得点。そして53点差はいずれも決勝での最高記録でした。
「もしかすると……」。そんな予感が脳裏をよぎったのは、前半17分、早大が2本目のトライを奪い、12対7とリードを奪った場面です。
そのシーンを振り返りましょう。敵陣右のラインアウトからサインプレーで左に展開。最後は大外のウイング松下怜央選手がインゴール左隅に飛び込みました。
早大・大田尾竜彦監督によると試合前から「分析して準備したプレー」でした。
しかし早大の見せ場はそこまででした。帝京大は22分、フランカー青木恵斗選手のトライ、スタンドオフ高本幹也選手のコンバージョンキックで逆転。27分にはラインアウトを起点にナンバーエイト延原秀飛選手がゴールポスト下に飛び込むなど、28対12と2トライ2ゴールでも追い付かれない16点差としました。 早大としては、僅差のスコアで前半を終えたかったはずです。
早大OBの今泉清さんの分析がストンと腑に落ちました。
<潮目が変わったのは前半25分のスクラムだ。ペナルティーを取られて流れが変わった。ただ、仮にしのげていても帝京大が優位に立つのは時間の問題だっただろう>(「日刊スポーツ」2023年1月9日付け)
後半は45対8と、帝京大のほぼワンサイド。試合後、大田尾監督は「この2年は攻撃に比重を置いて練習をしてきましたが、これをベースにアタックかディフェンスに振る。それくらい極端な何かをしないといけない」と彼我の実力差を認めた上で、来シーズン以降の課題について語りました。
一方の帝京大、53点差をつけての圧勝ですから、就任1年目の相馬朋和監督も大満足でしょう。
「(スクラムについては)どうすれば自分たちが勝ち、どうすれば負けるのかを伝えながら、毎日繰り返してきました」
自らの強さだけではなく弱さにも目を向け、修正と改良を加えながら取り組んできた地道な練習が、大舞台で実を結んだのです。
現地で取材していて、スクラムを組む際、フランカー奥井章仁選手から上がった「TEIKYO GANZ!」の叫び声が気になりました。これは対抗戦でも聞こえてきたものですが、「GANZ」とはドイツ語で「完全な」という意味だそうです。
どういう狙いがあったのでしょう。本人は語ります。
「全て押す。塊となって、ひとつも崩れず押そうと。昨季からFWで考え、“ここぞ”の場面でコールしています。今日は1年の集大成なので、ほとんどの場面で言っていたと思います」
前半27分の延原選手のトライはスクラムでペナルティーを獲得し、タッチキックで得たラインアウトが起点となりました。後半11分、高本幹也選手のスキルフルなトライの背景には、直前のスクラムで反則を誘い、アドバンテージを得ていたことがありました。また18分の奥井選手のインターセプトによるトライは、早大ボールのスクラムに押し勝って相手を追い込んだことで生まれたものです。
ここで明大OB砂村光信さんの指摘を紹介しましょう。
<春の時点で明大の方がFWは大きく見えたが、帝京大はシーズンに入ると、体の厚みや強さで逆転していた>(「スポーツニッポン」2023年1月9日付け)
帝京大には医学部、薬学部、医療技術学部と三つの医療系学部があります。フィジカルの強さやフィットネスの良さは医療系学部との連携がうまくいっている傍証と言えるかもしれません。
これについて沖永佳史理事長・学長は<「大学の医科学分野と連携した取り組みは、ラグビー部だけではなく大学全体の大きな成果になった」>(「RUGBY REPUBLIC」2022年7月22日配信)と自賛していました。
2010年1月10日に初めて大学日本一になった帝京大は、そこから今回までの14シーズンで11回も大学選手権を制しています。当初は「ジャパンの選手が少ない」と陰口を叩かれたこともありましたが、初のベスト8に進出した2019年W杯日本大会では、代表に7人のOBを送り込みました。
今シーズンから指揮を執る相馬監督も同校のOBで、07年W杯フランス大会に出場しています。三洋電機(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)入社後も母校のグラウンドに足を運び、後輩たちにスクラムなどを指導しました。キャプテンの松山千大選手は<前主将で東京SGのプロップ細木康太郎(22)と連絡を取り合い、「こういう時はどうしてましたか?」と相談することもあった>(「スポーツニッポン」2023年1月9日付け)。医療系学部との連携、そしてOBの献身的な協力。帝京大の牙城は盤石なように映ります。
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