
リーグワンの2022-23シーズン王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイは、首位・東芝ブレイブルーパス東京に勝ち点差2の3位(第17節終了時点)に付け、既にプレーオフトーナメント進出を決めています。昨季までは強力フォワードを全面に押し出す戦いぶりだったスピアーズですが、今季はバックス陣の充実ぶりが光ります。スピアーズの田邉淳アシスタントコーチに好調の理由を聞きました。
――今季のスピアーズは、目下リーグ4位タイのトライ数をマークしているウイング、ハラトア・ヴァイレア選手をはじめ、バックス陣の活躍が目立ちます。
田邉淳:どこのチームのコーチもよく言うことですが、“同じ絵を見られている”というところが大きい。スタンドオフのバーナード・フォーリー、センターの立川理道、スクラムハーフのブリン・ホールなど経験豊富な選手たちと、センターの廣瀬(雄也)、ウイングの根塚(洸雅)、スクラムハーフの藤原(忍)ら若い選手たちが同じ絵を見ながらラグビーをできていると実感しています。
――それは田邉さんの手腕によるものでしょうか?
田邉:いや、僕はあくまで「こういう材料があるよ」と提示しているだけです。あとは選手同士でどうするか。試合や練習での選手間のコミュニケーションを見て、“同じ絵が見えている”と感じています。
――終盤戦においても、ユーティリティーバックスの松下怜央選手、山田響選手ら若手バックスがトライを挙げるなど存在感をアピールしています。選手層が厚くなってきていると実感していますか?
田邉:誰を使うかで悩むというのは、チームとして非常にうれしいこと。みんなで切磋琢磨しながら、選手の“なんとか23人の中に入りたい”という気持ちがいい競争を生んでいると感じています。
――今季のスピアーズはウイング陣によるハイパントの再獲得が目立ちます。
田邉:そうですね。ルールが毎年変わる中、今季はコンテストボールにおいて、ボールキャッチャーの周りに“エスコート”と呼ばれる壁をつくる行為が禁止になった。それにより、ボールに競り合いやすい状況が生まれてきました。ボールをキックして一度は手放したとしてもマイボールにできるという点は、ウチの強みになっていると思います。
――ヴァイレア選手はウイングに固定されたことで、水を得た魚のようにプレーしているように映ります。
田邉:彼はあれだけのサイズ(身長187センチ、体重105キロ)でも、パスもキックもうまく器用な選手なんですよ。我々は当初12、13番(センター)で使いたいと思っていました。ただ彼はリンクプレーにまだ課題が残る。フォワードからボールをもらい、そこからボールをキャリーするのか、パスを選ぶのか。センターはその判断を相手と接近した状態でしなければならないため、難しい。翻ってウイングはセンターと比べればスペースがあり、相手と1対1になるシチュエーションが多い。だから今季は彼をウイング中心で起用するようHCに進言しました。
――長身のヴァイレア選手に対し、もう1人のウイング根塚選手は身長173センチ。サイズは大きくないものの、彼のサイドにもハイパントを蹴り、ボールの再獲得に成功しています。
田邉:ヒート戦(第16節、三重ホンダヒート)で根塚はハイボールを1回競り勝ちました。彼のように小さくても競れないということはない。どれだけ1対1の状況で、手を入れたり、ジャンプしたりできるかが大事なことだと思うんです。空中で競り、プレッシャーをかけることで、相手がバランスを崩し、ノックオン(ノックフォワード)する可能性もある。どんなにハイボールキャッチが上手い相手でも、競り合いにいけば何が起こるかわかりませんから。
――その根塚選手は今季序盤、ケガで出遅れましたが、第11節で戦列に戻ってきてからは、5トライを記録するなど、プレーに力強さが増したように見えます。
田邉:やるべきことがクリアになったんじゃないですかね。アタックでもディフェンスでも、自分の仕事、役割は何かということが非常に明確になっているからこそ、思い切ったプレーができる。その結果、プレーに力強さが出ているのではないでしょうか。
――今季、スピアーズはスコット・マクラウドアシスタントコーチが就任し、新しいディフェンスシステムで臨んでいます。現在、リーグ最少失点と新システムは功を奏していると言っていいでしょうか。
田邉:チームのディフェンスシステムを、選手が信じて戦い切れているからこそ、機能しているんだと思います。アタック面も一緒ですけども、チームとしてやるべきことが明確になっていることが大事。もちろん局面によっては、グレーな部分もたくさんあると思うのですが、その際の選択肢が5つも、6つもあるのではなく、2つほどに絞れている。
――ディフェンスにおいてもチームで「同じ絵を見られている」と?
田邉:そうですね。ディフェンスには必ずルールがあり、チームの決めごとの中で何を重視すべきなのかがはっきりしていることが重要。今季のスピアーズは“こうなったら、こうするんだ”とやるべきことがクリアになっている。それが、いいディフェンスシステムに繋がっているのだと思います。
<田邉淳(たなべ・じゅん)プロフィール>
1978年6月25日、奈良県出身。現役時代のポジションはセンター、フルバック。3歳でラグビーを始め、報徳学園高、シャーリーボーイズ高校(ニュージーランド)、クライストチャーチ教育大(同)を経て、2003年、三洋電機に埼玉パナソニックワイルドナイツの前身・三洋電機に入社。10年11月6日に行われたリポビタンDチャレンジカップ、ロシア戦で日本代表初キャップを記録するなど通算3キャップ。現役引退後はパナソニックのバックスコーチ、サンウルブズのアシスタントコーチに就任。19年4月にクボタスピアーズ船橋・東京ベイのアシスタントコーチに就き、22-23シーズンのリーグ優勝に貢献した。
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