W杯3連覇を目指すニュージーランドの野望を打ち砕いたのはエディー・ジョーンズHC率いるイングランドでした。過去、W杯においてイングランドはニュージーランドに3戦全敗。W杯初のニュージーランド戦勝利の裏には周到な準備がありました。
「彼ら(ニュージーランド)の準備は1週間。私たちは2年半準備をしてきました」
神奈川・日産スタジアムでの準決勝、19対7で勝利したイングランドを率いるエディーHCは試合後、“してやったり”の表情を浮かべて語りました。ニュージーランドの1週間とは準々決勝から準決勝までの期間、イングランドの2年半とは大会の組み合わせが決まってから準決勝までの期間を指します。いかに長期的なビジョンを描いてチームを強化してきたか、エディーHCはそれを言いたかったのでしょう。
イングランドにはホイッスルが鳴る前から驚かされました。チームの士気を高めるニュージーランドの“ハカ”を、何とV字の陣形で迎え討ったのです。
かつてフランスが矢尻形で構え、ハーフウェイラインを超えて迫ったことはありましたが、V字は初めて見る陣形でした。
試合後、イングランドのCTBオーウェン・ファレル主将は「ただ立って、ハカを受けるだけのことはしたくなかった」と舞台裏を明かしました。FLサム・アンダーヒル選手は「ニュージーランドに対し、“我々は戦う準備ができているぞ”と示したかった」とさらに踏み込んだ発言をしました。
イングランドの仕掛けは、これだけにとどまりません。キックオフはSOジョージ・フォード選手が右サイドに蹴ると見せかけ、直前にファレル選手にボールを渡したのです。受け取るやすぐにファレル選手は左サイドに蹴り出しました。ニュージーランドの選手たちに“いつもと違うぞ”と思わせるには十分な“奇襲”でした。
この“奇襲”でニュージーランドの選手たちが浮き足だったわけではありませんが、イングランドは素早い展開で敵陣に迫り、最後はCTBマヌ・ツイランギがインゴール中央に飛び込みました。電光石化の先制トライに日産スタジアムは大きく沸きました。
先手必勝――。前半を10対0というスコアで折り返したエディー・イングランドは試合の締めくくり方も完璧でした。「最後の20分が重要」。エディーHCは常々、こう語っていました。
「フィニッシャー(最後の15人)を先に決めてから、スタートの15人を決めました。というのは(最後の20分が)一番重要な時間帯だからです。ニュージーランドとやるためにはフィニッシャーが大事なんです。彼らは素晴らしい仕事をしてくれました。その結果、ニュージーランドはなかなか自分たちの勢いを取り返すことができなかったんです」
途中で起用されたのはプロップのジョー・マーラー選手(通算キャップ数66)、ダン・コール選手(同93)をはじめ経験豊富な選手たちでした。
自分のペースに持っていけないニュージーランドは後半17分に1トライ1ゴールを返したものの、6点差に迫るのが精一杯。その後、2本のPGで6点を追加され、3連覇の夢は潰えました。追い上げが期待された残り20分は、自軍のスコアを動かすことができませんでした。
「80分間を60分と20分に分けました。最初の60分間は走りきれる選手。最も大切なのはフィットネスです。そして最後の20分間は元気のある選手、あるいは経験のある選手。要するにゲームをコントロールできる選手です。ウチには“37歳のフィニッシャー”がいました」
エディーHCのこのコメントはニュージーランド戦後のものではありません。今から7年前、サントリーサンゴリアスのGM兼監督として日本選手権を制した時のものです。“37歳のフィニッシャー”とは元オーストラリア代表スクラムハーフのジョージ・グレーガン選手のことです。エディーHCが彼に託したのは「ヤンキースのクローザー、マリアーノ・リベラ」の役割」でした。ニューヨーク・ヤンキースで史上最多通算652セーブをあげたメジャーリーガーを代表する守護神の名をあげたことに私は少々驚きましたが、あらゆるスポーツからヒントを得るのがエディーHCの策士たる所以です。
さて日産スタジアムで行われる11月2日の決勝の相手はエディーHCが2007年にチームアドバイザーとして優勝に貢献した南アフリカ。大一番を裁くレフェリーはジェローム・ガルセスさんです。このフランス人、4年前のジャパンvs.南アフリカを担当したエディーHCにとっては縁起のいいレフェリーです。イングランドに風が吹いているように思えてなりません。
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