異例の交代でした。去る3月19日に行われたリーグワンディビジョン1第10節、熊谷スポーツ文化公園ラグビー場での埼玉パナソニックワイルドナイツ対リコーブラックラムズ東京戦での出来事――。後半19分に埼玉WKの堀江翔太選手が起用されたのは本職のフッカーではなくフランカーのポジションでした。
フッカーはスクラムの最前列中央に位置し、スクラムをコントロールする役割を求められます。ラインアウトではスロワーを務めることが多く、セットプレーの中心となります。一方フランカーは攻守でボールに絡む機会が多く、豊富な運動量が求められます。
堀江選手曰くフランカーでのプレーは「覚えていないくらい久しぶり」。帝京大学時代はナンバーエイトを中心に第3列(フランカー、ナンバーエイト)が本職でしたが、卒業後、フッカーに転向。以降、堀江選手は日本を代表するフッカーへと成長していきました。2011年ニュージーランド、15年イングランド、19年日本と3大会連続出場を果たしたW杯は全てフッカーでの起用でした。
BR東京戦、堀江選手がピッチに登場したのは埼玉WKが22対12でリードし、自陣で相手ボールのラインアウトという場面でした。堀江選手がロックのエセイ・ハアンガナ選手に代わってピッチに入り、ナンバーエイトのジャック・コーネルセン選手がロックに、フランカー福井翔大選手がナンバーエイトに回りました。
交代を認めた新井卓也レフリーが「(交代は)4番(ハアンガナ選手)でいいですか? 大丈夫? 大丈夫?」と何度も確認していたことが、異例の起用だったことを示していました。
今季のリーグ戦でも、堀江選手は8試合中7試合で途中出場し、いずれもフッカー坂手淳史選手との交代でした。この日も誰もが2人の交代を予想したはずです。坂手選手自身「(自分が)交代かと思った」と驚いていたほどですから。
ところが堀江選手、自らがフランカーで起用されることを試合前から想定していたそうです。
「3列目での起用は今週の試合メンバーを見て、“あるな”と準備はしていました」
試合後の記者会見で金沢篤コーチは「前半にケガをした選手もいました。堀江は経験豊富な選手ですし、フランカーにも対応できるのでイレギュラーな変更となった」とスクランブル起用の理由を語りました。
ところで、この試合は、堀江選手にとってワイルドナイツでの公式戦162キャップ目でした。これはチーム歴代最多記録。もっとも堀江選手は「キャップが多ければエエというもんじゃない。ここで満足する人間ではない」と落ち着いたものでした。
慣れないポジションもものかは、32分にはラインアウトからのモールでトライを奪い、貴重な追加点をあげました。この得点などで突き放した埼玉WKは29対12で勝利し、リーグ戦8連勝を飾りました。
不慣れなポジションをいとも簡単にこなしてしまう理由を、堀江選手の著書『ベテランの心得』(PHP)に見つけました。それは「フラットな観察力」です。
<試合が始まってからの観察が大切なんですよ。だから、自分としては視野を広くして、どんなことが起きているのかをフラットに観察しながらプレーしています>。
36歳の堀江選手、昨季からスタメンよりも後半から出てきて流れを変える“インパクトプレーヤー”としての起用が多くなってきましたが、ベンチからでも「フラットな観察力」を発揮しているからこそ、ゲームの流れが読めるのです。
19年W杯日本大会以降、堀江選手はジャパンから遠ざかっていますが、現在のパフォーマンスを見る限り、再招集されても何ら不思議ではありません。ジャパンは、7月にシックスネーションズを制したフランス代表とのテストマッチが国内で2試合組まれています。ぜひとも堀江選手の雄姿が見たいものです。
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