ラグビーW杯日本大会1次リーグの注目カード、ニュージーランド代表(オールブラックス)対南アフリカ代表戦は 23対13 でオールブラックスに軍配が上がりました。神奈川・日産スタジアムに詰めかけた6万人を超える大観衆が、試合とともに楽しみにしていたのがオールブラックスのハカでした。
キックオフ直前、黒いジャージーを纏った23人が隊列をつくり、勇ましい雄叫びがスタジアムに鳴り響きました。まずはハカのリード役、TJ・ペレナラ選手が目をギラつかせながら叫びます。それに呼応するように他の選手たちも続きます。キャプテンのキーラン・リード選手が「いいか、よく聞け」と叫び、隊列の中央で拳を突き上げて選手たちを鼓舞します。2人のリードで戦士たちは自らの肉体を打楽器のように打ち鳴らし、大地を踏みならしながら力強い舞いを披露しました。この間、だいたい100秒。ナマで目にした戦いの儀式の迫力は想像以上でした。
ハカとはニュージーランドの先住民族マオリの神聖な舞踊の総称です。英語では「ウォークライ」と呼ばれます。日本語なら、さしずめ「鬨(とき)の声」と言ったところでしょうか。
マオリの血を引くペレナラ選手は毎日新聞のインタビューの中で、こう解説しています。
<ハカは元々、相手を威嚇するような意味があった。今は進化し、お互いに対するリスペクト(尊敬)を示すものになった。チームメート、家族、私たちの祖先、見てくれている人ともつながる>( 2019年9月23 日)
この日、オールブラックスが披露したハカは、特別な試合でのみ行われる「カパオパンゴ」(黒のチーム)と呼ばれるもので、“チームをひとつにする”との意味が込められていました。また今回のそれは通常、ひとりのリード役を2人にするという特別仕様でした。W杯初戦の相手が過去に2度の世界一を誇る南アフリカということもあったのでしょう。オールブラックスのスティーブ・ハンセンヘッドコーチは勝利後、「ハカはニュージーランド代表にとって非常に大事なものです。(今回のハカは)選手が決めて、2人でリードすることになりました」と説明しました。リード選手は「リーダーとして何ができるかをチームと話し、そのつながりを見せられたと思う」と語っていました。
ハカの最中、対戦相手はじっと待つしかありません。通常は肩を組み、相手をにらみながら横一列で待ちます。
トンガ出身の元代表選手ラトゥ・ウィリアム志南利さんは「ジャパンもモチベーションを上げるために何か考えてやった方がいいと思う」と提案します。
「トンガにもハカと同じシピタウという戦いの舞いがあります。フィジー、サモアにもありますね。やる方はいいのですが、黙って見ているチームは大変ですよ。僕はなかったけど、それを見てビビってしまう選手も中にはいたからね」
ハカは試合前だけではなく、結婚式などの祝いの席や賓客を歓迎する際にも披露されます。私の記憶では 2015年に亡くなったオールブラックスのレジェンド、ジョナ・ロムーさんの葬儀で、オールブラックスの仲間たちが披露したハカが印象に残っています。崇高なる“別れの儀式”でした。
46歳まで現役を続けた“鉄人”伊藤剛臣さんは、“オフ・ザ・ピッチ”で思わず目にしたハカに胸を打たれたと言います。
「チームで飲み会をした時に、元オールブラックスの選手何人かにハカを見せてもらったことがあります。それまで散々、がぶ飲みして酔っぱらっていた選手でも、ハカをやるとなるとガッとスイッチが入るんです。すごい迫力で圧倒されっぱなしでした」
その伊藤さんもラトゥさん同様、「日本にもハカが必要」という考えの持ち主で、こんな私案を披露してくれました。「大相撲の土俵入りや空手の形を参考にし、独自のものを作り上げたらどうでしょう」
さて、1次リーグプールAのジャパンとプールBのオールブラックスは、ともに準々決勝へ進めば対戦する可能性が出てきます。両チームは昨年 11月に東京でテストマッチを行いましたが、オールブラックスがハカを披露している最中、ニュージーランド出身のキャプテン、リーチ・マイケル選手が、1歩、2歩とにじり寄っていく姿は強く印象的に残っています。その姿に、無言のキャプテンシーを感じたのは私だけではないでしょう。このゲーム、31対69で敗れはしたものの、日本は5トライをあげ、奮闘ぶりをアピールしました。
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