2019年W杯日本大会を戦うジャパンの候補選手たちは現在、ヒト・コミュニケーションズサンウルブズとウルフパック(代表候補選手らを中心にした特別チーム)に分かれ、海外遠征中です。サンウルブズはオーストラリアでのスーパーラグビー(SR)第8節を目前に控えています。一方、ウルフパックはニュージーランドでSRのBチームと対戦します。
ジャパンが4年前のW杯イングランド大会で過去最多の3勝をあげた要因のひとつにセットプレーの充実があげられます。当時のメンバーでジャパン最多98キャップを誇る大野均選手から、こんな話を聞きました。
「それまでのジャパンはセットプレーを弱点と捉え、試合中にスクラムを組む時間をいかに短くするかという考えでした。だがエディー(・ジョーンズHC)さんは違った。スクラムでも世界に通用する、との方針で4年間をスタートさせました」
スクラム強化を担当したのはフランス人のマルク・ダルマゾコーチでした。フランスはスクラムの最新機器を有し、専門のアカデミーまで設けています。ダルマゾコーチは選手たちに低い姿勢で組むスクラムを徹底して教え込みました。
ダルマゾコーチの指導は今もジャパンのベースとなっています。昨年11月のヨーロッパ遠征ではニュージーランド、イングランド、ロシアと対戦しました。特筆すべきデータがあります。計3試合で21回あったマイボールスクラムで20回もボール確保に成功したのです。
現在のスクラム担当コーチはサントリーサンゴリアスで活躍した長谷川慎さんです。現役時代は主にプロップとしてプレーし、「スクラム番長」の異名をとりました。<「いちばん嬉しいのは、試合で流れを変えるスクラムを組めた時」>(「サントリーサンゴリアスHP」2006年4月13日配信)と口にするほどです。2015年にヤマハ発動機ジュビロが日本選手権を初優勝した際には、コーチとして清宮克幸監督を支えました。
以下は長谷川コーチと同学年でジャパンでも一緒にプレーした伊藤剛臣さんの話です。伊藤さんがフランカー、ナンバーエイトで長谷川コーチがプロップという間柄でした。
「スクラムを組む際、“タケ、頼むぞ”と彼は必ず言っていました。当時のジャパンは、スクラムは押されるものだと最初から諦めていて、マイボールスクラムではすぐにボールを出していました。でも彼は後ろからの押しを要求するんです。スクラムに対する意識が高くて、現役の時から“スクラムは8人で組むものだ”という哲学をしっかり持っていました。加えて彼は最前列に立つフロントロー(プロップ2人とフッカー)だけでなくバックファイブ(ロック2人とフランカー2人とナンバーエイト)にも意識の高さやスキルを求めていた。フロントローの強さをベースとしながら、いかにバックファイブの力を前へ伝えるか。そこが一番大事だと考えていました」
長谷川さんがジャパンのスタッフに加わったのは2016年秋です。その経緯について、清宮さんはこう語りました。
「ジェイミー・ジョセフ(HC)は“ヤマハのスクラムが1番いい”と常に僕に言っていました。それで“長谷川を貸してくれ”という話になったんです。長谷川を貸すということはヤマハのスクラムを外に出すことと同義ですが、僕は“喜んで”と言って送り出しましたよ」
サントリーを辞めてヤマハに加わる前、長谷川コーチは清宮さんの勧めでフランスに留学し、スクラムを学びました。強豪チームに出向き、時にはナショナルチームの練習にも参加しました。
清宮さんは続けます。
「フランスはスクラムの研究所を持っている。普通は他国のラグビー関係者には中までは見せないのですが、長谷川だけには見せてくれたそうです。研究所の部屋の壁にはシックスネーションズの写真が貼ってあり、観客の声まで流す。しかも試合会場と同じボリュームで。その中でスクラムの練習をする。要するに全てが実戦形式なんです」
フランスでの長谷川コーチの経験と知見がヤマハのスクラムに生かされたのは言うまでもありません。「内側の足をあと1センチ下げて」「右ひざを3センチ沈めてみろ」と細部にまでこだわるのが長谷川流です。自他ともに認める“スクラム職人”の手腕に注目が集まります。
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