5年ぶり3度目の2冠を達成したパナソニックワイルドナイツ。前身の三洋電機出身で強化担当の責任者である飯島均ゼネラルマネジャー(GM)に話を聞きました。
――5年ぶりの2冠達成おめでとうございます。
飯島均:ありがとうございます。まずは決勝を戦ったサントリーさんに敬意を表したい。試合を見ていて、すごく鍛え上げられている印象を受けましたし、そのおかげで皆さんに好ゲームを披露することができたと思っています。優勝は毎回うれしいのですが、特に今回は昨年、新型コロナウイルスの影響を受け、途中で中止になって迎えたシーズンでした。かなりチーム内でも自制して、いろいろなことを我慢して過ごしてきました。ここまでコロナ陽性者を出さず、TL表彰式ではフェアプレー賞をいただくことができた。私たちらしいラグビーを体現でき、誇らしく思っています。
――今季のTLでパナソニックはペナルティーを犯す回数が少なかった。リーグ戦7試合で47は最少でした。
飯島:そうですね。私が現役の頃は、接戦で負けることが多かった。三洋電機からパナソニックに代わったあたりから、勝率が上がってきた要因は規律面の向上ですね。ブレイクダウンで激しく争い、相手にプレッシャーをかけることは必要なことですが、時に行き過ぎてしまうと反則になります。チームによっては、相手の流れを止めるためにわざと反則を犯す場面もあるかもしれません。それよりも反則を犯さずに持っているものを出し切る戦いをする方が、プレーヤーも見ている側も楽しいでしょう。それが私たちのラグビー哲学なんです。
――昨年はコロナ禍でジャパンの活動が行えませんでした。一方、TLのチーム側からすれば、ジャパンの選手たちがチームと一緒に過ごす時間が増えました。
飯島:例年以上にチームの熟練度を深めることができたと思っています。チームが強い時には、表には見えない部分が重要になってくる。Bチーム以下の選手の貢献度が高ければ、試合に出ている選手に責任感がさらに出てくる。これは人づてに聞いたことですが、優勝してもあまり感情を露わにしないフッカー堀江(翔太)が、ベンチにいる選手たちの顔を見て、涙ぐんでいたそうです。それだけチームが一体となれたシーズンだったと思います。
――コロナに関しては、チーム内で特別なルールを設けていたのでしょうか?
飯島:他とは比較できないので、特別かどうかはわかりません。ただ感染防止対策については、かなり神経を注いできました。もし陽性者が出てしまったとしても、濃厚接触者を減らせるように配慮したトレーニングや行動を心がけました。
――今季限りでの引退を表明しているウイング福岡堅樹選手は決勝でトライをあげるなど大活躍を見せ、MVPとベスト15に輝きました。
飯島:まるで映画やドラマのようなストーリーで、“話ができ過ぎじゃないの?”と思うほどでしたね。特に最後の数試合に対する集中力、活躍ぶりは神がかっていました。私が見ていても“福岡がトライを取って勝つんじゃないか”と思わせてくれるし、実際に決定的なトライをあげる。プロ野球の長嶋茂雄さんのようなスター性を感じました。
――年齢は28歳。「引退は早すぎる」と惜しむ声もあります。
飯島:GMとしては100%惜しい。これから2、3年がピークですから。ただ人間・飯島としては“彼の次の人生を見てみたい”という思いもある。彼がどういう人間になり、世の中にどう影響を与えていくのか。今季、ラグビーと医学の二刀流に挑戦したことで、“自分もやってみよう”と多くの人の挑戦を後押ししたと思っています。
――飯島GMが選ぶ今季のMVPは?
飯島:福岡のほかに、フッカー坂手淳史のキャプテンシーもすごかった。うーん、ひとりには絞れないですね。全試合に出場したロックのジョージ・クルーズとセンターのハドレー・パークスの献身ぶりにも頭が下がります。決勝で胸が熱くなったのは、39歳のロック、ヒーナン・ダニエルが、タックルしてはすぐに起き上がり、またタックルする姿でしたね。昨シーズンから最も成長を感じたのはセンターのディラン・ライリーとフランカー/ナンバーエイト福井翔大です。
――ライリー選手は4月発表の日本代表候補54名に選ばれました。高卒で入団し、3シーズン目を迎えた21歳の福井選手は決勝で途中出場からジャッカルで相手の反則を誘うなど、大きなインパクトを残しました。
飯島:福井はもちろんいい選手だとはわかっていましたが、これほど成長するとは驚きです。私は今、彼がジャパンの中に入っても遜色ないと思っています。この数年ですごい選手になることを予感させる活躍でしたね。彼の持っているギャップを突く能力に加え、ボールキャリー、ジャッカルといった働きぶりはチームにとって不可欠なものでした。また今季の活躍で相当自信をつけた。来季の福井は、さらにフィーバーすると思いますよ。
――8月からは群馬県太田市から埼玉県熊谷市に本拠を移転します。2冠達成で両市に対し、いい報告ができましたね。
飯島:優勝した翌日には太田市長、大泉町長にご挨拶に伺いました。太田市に対しても本拠としては最後のシーズンとなった節目を優勝で終えることができた。埼玉県庁に優勝報告に行った際は、職員の方から大きな拍手で迎えていただきました。優勝をすごく喜んでいただけたことがうれしかったですね。
――チーム名が「埼玉パナソニックワイルドナイツ」となることも発表しました。
飯島:映画にもなった『翔んで埼玉』の“世界埼玉化計画”のひとつですね(笑)。とはいえ、群馬県、太田市、大泉町との縁が全くなくなるわけじゃありません。今年は太田市の陸上競技場でプレシーズンマッチを行いましたが、今後も継続していきたい。“いなくなる”というよりは“広がっていく”イメージ。両市を含めた広域に対し、私たちがラグビーを通じた架け橋や潤滑油になれたらいいと感じました。
<飯島均(いいじま・ひとし)プロフィール>
1964年9月1日、東京都出身。現役時代のポジションは主にフランカー。府中西高を経て大東文化大に進む。大学4年の時、大学選手権優勝を経験。三洋電機(現パナソニックワイルドナイツ)に入社。95年度の全国社会人大会初制覇を最後に現役を引退した。96年度から99年度まで三洋電機の監督を歴任。その後、2001年から03年までラグビー日本代表のコーチを務め、05年度からは三洋電機に復帰した。08年度より再び監督に就任し、日本選手権の連覇を3に伸ばし、10年度には悲願のトップリーグ初優勝に導いた。ラグビー部長を経て、現在はゼネラルマネジャーを務める。
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