ノーサイドのホイッスルが鳴った瞬間、選手たちが歓喜に沸く姿は珍しくありません。だが、勝ったにも関わらず、リーダー格の選手がチームメイトを制している姿を見るのは稀です。まるで「落ち着け」とでも言わんばかりに。花園近鉄ライナーズでディビジョン2(D2)得点王に輝いたスタンドオフのクウェイド・クーパー選手がその人です。
冒頭のシーンは5月8日、東京・秩父宮ラグビー場でのリーグワン・ディビジョン2の順位決定戦第3節、ライナーズ対三菱重工相模原ダイナボアーズ戦後のひとコマです。
リーグ戦上位3チームが総当たりで行われるD2の1~3位決定戦。第2節終了時点の順位はライナーズが1勝0敗(勝ち点5)で1位、三重ホンダヒートが1勝1敗(同4)で2位、ダイナボアーズが0勝1敗(同1)で3位。優勝争いはライナーズとダイナボアーズの2チームに絞られました。最終節でライナーズは勝つか引き分けなら文句なし、負けても7点差以内(ボーナスポイント1)ならD2優勝&D1昇格が決まるという状況でした。
試合はオーストラリア代表110キャップを誇るスクラムハーフのウィル・ゲニア選手、同75キャップのクーパー選手のハーフ団、2020年度に天理大学の大学日本一に貢献したセンターのシオサイア・フィフィタ選手らを擁するライナーズの強力なBK陣がフル稼働します。
八面六臂の活躍をしたのが19年度に加入し、3シーズン目を迎えたクーパー選手でした。5分に先制した後、11分には飛ばしパスで左サイドに大きく展開。数的優位をつくり、最後はウイング片岡涼亮選手がインゴール左に飛び込みました。クーパー選手はコンバージョンキックを決め、14対0。
その後、ダイナボアーズに2トライを許し、一時は4点差に詰められたものの、ここでもクーパー選手の活躍が光りました。33分にPGを成功させ、22対15に。さらに40分、敵陣でボールを持つと、右サイドへのグラバーキックでロックのサナイラ・ワクァ選手のトライを演出しました。
ライナーズは後半、我慢の時間が続きました。18分には相手の1トライ1ゴールで5点差に。相手に傾きかけた流れを、またしてもクーパー選手が引き戻します。28分、自らのパスからフィフィタ選手が右サイドを突破。フィフィタ選手から再度ボールを受け取ると、そのままインゴールに飛び込みました。自らコンバージョンキックを決めて34対22。この後スコアは動かず、ライナーズのD2制覇&D1昇格が決まりました。
そして冒頭のシーンです。クーパー選手は、チームメイトとハドルを組み、こう語りかけました。話の中身が明かされたのは試合後です。
「特別な一瞬だとは分かっていました。でも負けて傷付いているチーム、ファンがすぐ近くにいた。前回、三菱(ダイナボアーズ)と戦った時に負けた際、相手は飛び上がり、水を掛け合って大喜びしていた。我々はそれをしたくなくて、今回選手を集めて言った。『三菱は我々に勝った時はああやって喜んでいたけど、我々の勝ち方とは違うから喜び方も違う。我々は勝つべくして勝っているから、あんなに大げさに喜ぶ必要がない』という話をしたんです。『喜ぶんだったらロッカーに戻ってから、仲間内で喜んだらいい』とも」
諭すようにチームメイトの語りかけていたクーパー選手。チームメイトのフィフィタ選手は「先生」、この日2トライをあげプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた片岡選手は「お父さん」と呼んでいます。
チームメイトのワクァ選手とD2のトライ王を分け合った片岡選手の話。
「ラグビーの面ではウイングとしての役割、ポジショニングを教えてもらっています。練習の中でも“こうしろ”と要求してくる。それを学び続けた結果、自分のいいプレーができました。もちろんラグビー以外のこともいろいろと学んでいます」
クーパー「先生」自身、大阪での3年間で「成長することができた」と言います。
「この3年間、本当にチームに感謝しています。日本は素晴らしい国です。出会った人たち、またサポートしてくれた人たち、チームメイトもそうですが、本当に素晴らしくて、ラグビー選手としてというより男としても1人の人間としても、すごく成長することができた。私を呼び寄せ、チャンスをくれた近鉄には本当に感謝しています」
昨年秋にはオーストラリア代表にも復帰しました。
記者会見では「来年もチームに残りますか?」という質問に対し、「I hope so」と答え、こう続けました。
「契約自体はまだですが、もしかしたら『もういらない』と言われるかもしれませんが……」
5月8日配信のスポーツニッポンのWEB版(スポニチアネックス)によると、<既に来季も契約継続で合意している>とのこと。ホッと胸を撫で下ろしているライナーズのファンは少なくないはずです。
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