天皇誕生日の12月23日、トップリーグの入替戦4試合が各地で行われました。今季(2018-19)、トップリーグ14位の日野レッドドルフィンズはトップチャレンジリーグ3位の近鉄ライナーズを21対11で下し、トップリーグ残留を決めました。
今季トップリーグ初参戦の日野は、新たな試みに挑んでいるチームです。地域密着の理念を掲げ、今年5月、チーム名を日野自動車レッドドルフィンズから日野レッドドルフィンズに変更しました。その日野は16チーム14位で下位4チームが出場する入替戦に臨みました。
2003年にスタートしたトップリーグは過去15回の入替戦を実施しています。トップリーグとトップチャレンジリーグの対戦は35試合を数え、トップリーグチームの32勝3敗です。データだけ見ると、トップリーグの優位は明らかです。
とはいえ熊谷ラグビー場で行われた日野とトップチャレンジリーグの近鉄との入替戦の下馬評は様々、むしろ“近鉄有利”との評もありました。なぜなら日野は昨季の入替戦で昇格したばかりのチーム。つまりトップリーグ1年生です。対する近鉄はトップリーグ在籍10年以上を誇り、来年で創部90年を迎える名門です。日野の細谷直監督は試合後の記者会見でこう語りました。
「去年とは違う立場で入替戦に臨むことになりましたが、近鉄さんの方がトップリーグにいる時間は比べ物にならないぐらい長い。我々が守るという気持ちに入ったらこの試合は負けると思っていました。とにかく“もう1回トップリーグに昇格しよう”という、去年のような気持ちで臨みました」
チャレンジャーの姿勢を貫いた日野は、近鉄との対戦が決まってから入念な準備を進めました。それが功を奏し、近鉄を1トライに抑えることができたのです。攻めてはラインアウトからサインプレーで2つのトライを奪うなど、近鉄対策がピタリ的中したかたちです。1本目はスローワーのフッカー木津武士選手がリフトする選手をおとりに使いニアサイドに走り込んだロックの村田毅選手にパス、村田選手は勢いそのままにインゴールに飛び込みました。2本目はリフトアップした選手の頭上を越えるパスで相手のマークを外し、ウイングの竹澤正祥選手のトライに繋げました。
「ラインアウトで近鉄さんが競ってくると分析していました」と、1本目のトライを決めた村田選手は胸を張りました。
日野は今季リーグ戦7試合で1勝6敗とトップリーグの壁に直面しました。総合順位決定トーナメントは1勝2敗で14位。苦しみながらもトップリーグ残留を果たした細谷監督は安堵の表情を浮かべて語りました。
「来年トップリーグでプレーする権利を掴んだということは素晴らしいシーズンだったと言えます。これが落ちていたら、今季の経験が薄れてしまいますから。ここまで来た以上は残ることがものすごく大事です」
トップリーグ参戦だけが、今季の日野の挑戦ではありません。日野の親会社は日野自動車。先述したように昨季までのチーム名は日野自動車レッドドルフィンズでした。今季から企業名を外し、地域名の日野のみを残しました。これはトップリーグでは例を見ない試みです。
細谷監督はトップリーグ開幕前にこう話していました。
「自動車という自分たちの名前を取ることはものすごく大きな決断です。私が今まで経験してきたチームからしても高いハードルでした。社長自らが“新しい時代のリーディングチームになっていくぞ”というメッセージだと私は思っています」
サッカーのJリーグ、バスケットボールのB.LEAGUEを例に挙げるまでもなく、ラグビーにおいても地域との良好な関係を築くことなくしてクラブの発展はありえません。
再び細谷監督です。
「これから日野市民はレッドドルフィンズを自分たちのチームと言えますからね。我々もそのアドバンテージをどんどん使っていきたいし、それが各チームにも広がっていけばいい。企業の冠を取っても、価値が上がっていくことを示したい」
町田で行われた開幕戦、熊谷で行われた入替戦は日野の応援団がバックスタンドをチームカラーの赤で染めました。
チーム在籍2年目の村田選手は、開幕戦後にその変化をこう語りました。
「僕は日野市で生活をしているのですが、試合が近付くにつれて市役所の方が赤いTシャツを着て仕事をしてくださっている。近くのショッピングセンターでも“初陣”というシャツを着ている人を見かけました。それは今までなかったこと。ゼロが1になっているのを感じます。試合には日野市にある(日野自動車とは)違う会社の方も観に来てくださった。それがすごくうれしかったです」
日野は開幕戦後にスーパーラグビーのクルセイダーズとのパートナーシップ契約締結を発表しました。ニュージーランドのカンタベリー地方にあるクルセイダーズはスーパーラグビー2連覇中の強豪です。アンガス・ガードナーGMは日野と提携した理由のひとつに「会社と地域の融合をすごく大事にしている。カタンベリーとクルセイダーズの関係とよく似ている」ことを挙げました。日野が目指す地域密着の理念に共鳴したからこその契約だったと言えるでしょう。
親会社の日野自動車は日野市内の工場移転事業を進めており、その跡地にスタジアム建設の構想があることを明らかにしています。「街の誇りであるために戦う」(村田選手)。来季も地域の代表としての日野の戦いは続きます。
18年の当コラムはこれが最後の更新となります。新年は1月10日スタートです。読者の皆さま、ご愛読ありがとうございました。来年もご贔屓に!
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