二宮清純
二宮清純コラム ノーサイドラウンジCOLUMN
2019年4月26日(金)更新

<ジャパン激闘史④>
ライバルこそ成長の糧
海外挑戦のパイオニア

 今回紹介する元ジャパンのスクラムハーフ村田亙さんは日本のラグビー界におけるプロ第1号に加え、フランスのラグビーリーグで活躍した海外挑戦のパイオニアでもあります。また桜のジャージーで91年イングランド大会、95年南アフリカ大会、99年ウェールズ大会と3度のW杯に出場しています。3度のW杯出場経験は村田さんの人生に何を残したのでしょう。

大抜擢の91年W杯

――91年イングランド大会は大抜擢でした。スクラムハーフ出身の監督・宿澤広朗さんに才能を見出され、初戦のスコットランド戦にフル出場しました。

村田亙:それまでは堀越(正巳)が起用されていました。僕は代表のレギュラーではなかった。逆に言えば、だからこそスコットランドは僕の情報を持っていない。宿澤さんはそこに賭けてみようと思ったんじゃないでしょうか……。

――スコットランド戦の会場はエディンバラでした。

村田:トンガ代表とのテストマッチを経験していましたが、W杯という舞台は全然雰囲気が違いましたね。それでもスコットランド戦の前半は“戦えている”との手応えがありましたよ。

――前半は9対17と善戦でした。

村田:プレッシャーはすごくきつかったけど、良いパスを供給することはできたと思っています。“このままいければ、後半は面白くなるぞ”と……。

――だが後半に突き放され、終わってみれば9対47でした。

村田:完敗でした。前半はいい勝負ができていたものの、相手の圧力ある攻撃はボクシングのボディブローのように効いてきました。ジャパンは徐々に動きが止まった。勝負どころでフォワードの第三列を止めることができませんでした。タックルが甘くなり、さらに空いたスペースに大きいバックス陣がトップスピードで入ってくる。その猛攻を防ぎ切れませんでしたね。

――この試合で村田さんは顎の骨を骨折したそうですね。

村田:ゴール前でタックルした時に顎を強打しました。めちゃくちゃ痛かったのですが、死ぬ気で最後までプレーしましたよ。

――個人としては収穫もあったと?

村田:当時はラインアウトのリフティングが認められていませんでした。味方は現在のようにキャッチしてボールを渡すのではなく、バレーボールのアタックのように叩き落としてくる。それに対してよく反応できていたと思います。負けた悔しさはありますが、たしか対戦相手の首脳陣に「9番が良かったぞ」と言われ、これは大いに自信になりました。

――思い出したくない試合もあるでしょう?

村田:95年の南アフリカ大会のニュージーランド戦です。試合が始まって5分までは覚えていますが、残りの75分間は何をやったか覚えていない。頭の中が真っ白なんです。

大敗の教訓

――頭の中が真っ白? わかる気がします。

村田:高校時代にも1度ありました。初めて花園に出場した高校2年時、緊張して何もできませんでした。ニュージーランド戦は“やってやる”と意気込んで臨みました。世界最強のニュージーランドですから、こちらは失うものがない。とにかく“どこまでできるか挑戦しよう”という強い気持ちで臨みました。

――結果は17対145の記録的大敗でした。日本ラグビー凋落の原因を作った試合だとも言われています。そこから得たものはありましたか?

村田:前半5分、サインプレーでゴール前まで攻め込みました。自分でトライを獲れたかもしれないのに、最後はパスを選択してしまったんです。結局、相手ディフェンスに阻まれた。その後はどんどん押し込まれていって何度もトライを獲られ、記録的な大敗につながりました。それ以来、吹っ切れて同じような場面では自分から仕掛けるようになりました。

――3度出場されましたが、村田さんにとってW杯とは?

村田:元々は夢舞台。それが3度も経験することができた。いろいろと努力を積み上げてきたらからこそ、“この舞台に立てたんだ”と今になってしみじみ思います。

――同じポジションの堀越さんとは、ことあるごとに比較されました。

村田:彼がいたからこそ、タイプの違う僕にもチャンスが巡ってきた。堀越は正確なパスを放るスタンダードなタイプのスクラムハーフ。一方、僕は持ち味の突破力やキックを生かし、スペースを突くタイプ。2人をミックスすれば世界的なスクラムハーフになっていたかもしれませんね(笑)。その意味では互いに相手にないものを持っていた。もちろん、尊敬できる選手でした。

――3度目のW杯では元ニュージーランド代表のグレアム・バショップともポジションを争いました。

村田:ライバルがいなければ現状より上を目指す努力をしないと思うんです。“コイツに勝ちたい”という思いで人より何倍も練習した。僕はたとえリスキーなプレーを選択してでも存在感を示そうというタイプ。だからジャパンにも入れたし、その後、海外にもチャレンジできたんだと思うんです。堀越やバショップなど、僕には節目節目で必ず強力なライバルがいた。それによりスクラムハーフとして、より多くの引き出しを増やすことができた。それが僕を成長させてくれたと思っています。

<村田亙(むらた・わたる)プロフィール>
1968年1月25日、福岡県生まれ。東福岡高を経て、専修大に進学。90年に東芝府中に入社。96年度からの日本選手権3連覇に貢献した。ジャパンのスクラムハーフとして、3度のW杯に出場。99年にはフランス2部リーグのバイヨンヌに移籍し、日本人初のプロラグビー選手として活躍する。帰国後はヤマハ発動機でプレー。04年度にチームをトップリーグ準優勝に導いた。ジャパンのキャップ数は41。08年の現役引退後は7人制日本代表の監督に就任。12年からは母校・専修大ラグビー部の監督を務め、14年度には13年ぶりの1部復帰を果たした。

 さて、当コラムの次回更新は5月9日(木)です。大型連休はスタジアムやテレビの前で熱戦をお楽しみください。

K.Ninomiya二宮清純
                                                 
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