二宮清純
二宮清純コラム ノーサイドラウンジCOLUMN
2018年12月13日(木)更新

成長を求めた神戸製鋼移籍
代表「激戦区」に挑む日和佐

 比較的大柄な選手が多いラグビーにおいて、小柄な選手にも居場所はあります。それがスクラムハーフです。このポジションはボールの出どころへ頻繁に顔を出し、豊富な運動量が求められます。敏捷性、高度なパススキル、的確な判断力が求められる重要なポジションです。

エディーの秘蔵っ子

 今季リーグ戦無敗の神戸製鋼コベルコスティーラーズと言えば、元ニュージーランド代表でスタンドオフのダン・カーター選手ばかりに注目が集まりますが、この選手の活躍にも目を見張るものがあります。昨季2冠のサントリーサンゴリアスから移籍してきたスクラムハーフの日和佐篤選手です。身長166センチの日和佐選手は素早いボール捌きで、今季の神戸製鋼の展開ラグビーを牽引しています。

 日和佐選手は日本代表51キャップを記録している31歳のベテランです。W杯には2011年ニュージーランド大会、15年イングランド大会と2度出場しました。記憶に新しいイングランド大会では、プール初戦の南アフリカ戦に7点ビハインドの後半26分から、田中史朗選手と替わってピッチに登場しました。日和佐選手は持ち味のテンポの速いパス出しでチームに攻撃のリズムを与えます。28分の同点トライ、終了間際の逆転トライの起点となり、優勝候補を破る“ブライトンの奇跡"を演出しました。

 当時のHCエディー・ジョーンズさんは、日和佐選手を高く評価していました。サントリーのGM兼監督を務めていた11年にヒザを交えて話す機会がありました。エディーさんは、日和佐選手のパスの正確性をサッカーのFCバルセロナで活躍していた元スペイン代表MFシャビ・エルナンデス選手になぞらえ、こう語りました。

「昨季のチャンピオンズリーグ決勝でシャビが何回パスしたか、ご存知でしょうか。148回です。そのうち141回が完璧でした。しかも彼は1試合平均約12キロ走っています。ではウチのスクラムハーフ日和佐篤の昨季のある試合でのパスの回数は?124回です。そのうち121回成功しました。私たち(サンゴリアス)が目指しているのはラグビー界のバルセロナなんです」

 ボールポゼッションを重視し、人もボールも動くエディージャパンのラグビーに日和佐選手は必要不可欠の存在でした。近年はサントリーでスーパーサブとして起用されることが多く、プレータイムを延ばしたいとの思いもあったのでしょう。8シーズンプレーしたサントリーを去り、神戸製鋼への移籍を決めました。

 移籍については本人も迷いがなかったわけではありません。サントリーサンゴリアスHPで、こう述べています。

<もちろんサントリーに残って、ずっとやりたかったというのが本音です。選手としての寿命を考えると、もうハーフタイムは過ぎている。そう考えた時に、サントリーに残って今と同じ感じでやるのも一つ、挑戦して外に出るのも一つというオプションがまだ残っていたので、そこの葛藤がありました。

 今シーズン(17~18)の途中くらいからミーティングルームのホワイトボードに「成長を止めたら、衰退の始まり」という言葉がずっと書いてあって、ここにいたら今までと同じことしかないなということを凄く感じました。この選択が合っているか間違っているかは分からないですが、正解に導くのは自分だと思うので、これからの頑張り次第だと思います>(2018年3月9日掲載)

 来年のW杯を32歳で迎える日和佐選手。自らを<ハーフタイムは過ぎている>と表現する中で、移籍という新たな道を選びました。目指すは19年W杯日本代表スコッド入りです。

助演男優賞

「成長した姿を見せたいと思っていました」

 日和佐選手がそう目を輝かせたのは、9月14日に東京・秩父宮ラグビー場で行われた古巣サントリーとのリーグ戦です。平日のナイトゲームにも関わらず1万7576人の観客が集まりました。元オールブラックスのスーパースターであるカーター選手の日本デビュー戦ということもあり、多くの視線は“赤のジャージー"の「10番」に注がれましたが、その近くを動き回る小柄な「9番」のプレーにも目が釘付けになりました。

 その試合を振り返りましょう。前半22分のカーター選手の日本初トライは日和佐選手のターンオーバー(ボール奪取)から生まれました。サントリーに自陣まで攻め込まれると、日和佐選手は中央左でのブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)で小さい体を投げ出し、ボールを奪い取りました。神戸製鋼はそこから右へ展開し、20対3とリードを大きく広げる貴重なトライをもぎ取ったのです。

 昨季まで「9番」の座を争ったサントリーの流大(ながれ・ゆたか)主将は、5歳上のスクラムハーフのプレーぶりをこう評していました。

「かなりプレッシャーをかけられました。ブレイクダウンにもプレッシャーをかけているなと。逆にこちらがもっと日和佐さんにプレッシャーをかけないといけなかった。9、10番(スクラムハーフ、スタンドオフ)にうまく動かれると、神戸のようなチームは勢いが出てくる」

 マン・オブ・ザ・マッチに選ばれたのは、この日の主役・カーター選手でしたが、“助演男優賞"は間違いなく日和佐選手でした。

 古巣との一戦では、攻撃面でも大きくアピールしました。持ち味の速い球出しだけではなく“成熟"した姿を見せたのです。「サントリーでは速いだけだった。それをゆっくりにしたり、FWをコントロールしたりできるようになりたい」。その言葉通りの緩急を使い分けたプレーが後半2分に飛び出しました。

 敵陣深くまで攻め込むと、左サイドでボールを持った日和佐選手はパスダミーでワンテンポずらし、味方が飛び込むスペースを生み出しました。すぐさまボールをウイングの児玉健太郎選手に渡し、彼のトライを演出したのです。直後のコンバージョンキックで30対8とリードは広がり、勝利をグッと手繰り寄せたビッグプレーでした。

 日和佐選手は後半22分に交代。ノーサイドの瞬間、満面の笑みでチームメイトと喜びを分かち合っていました。

 試合後のミックスゾーンでの舌も滑らかでした。報道陣からの「成長した姿を見せられた?」との問いに対しては、「そうですね。特に(サントリーの監督・沢木)敬介さんに」と笑みを浮かべていました。

 新天地で“進化"したプレーを見せている日和佐選手にジャパン復帰を望む声は少なくありません。しかし現時点でジャパンのスクラムハーフは田中選手、流選手、茂野海人選手が軸になっています。ジェイミー・ジョセフHCは2018年の代表戦7試合中6試合で田中選手と流選手の組み合わせを採用しました。指揮官の2人への信頼は相当厚いと思われます。前回イングランド大会のスクラムハーフは田中選手と日和佐選手の2人体制でした。当落線上にいる日和佐選手には、2人を上回るパフォーマンスを演じ、自らの存在をアピールする必要があります。生き残りを懸けた戦いが続きます。

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