来年1月にスタートする「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」(ジャパンラグビーリーグワン)に向け、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安が、元日本代表(ジャパン)でW杯4大会連続出場のロック、トンプソン・ルーク選手の入団を発表しました。2020年に現役を引退していたトンプソン選手の電撃復帰は大きな反響を呼びました。内山浩文ゼネラル・マネジャー(GM)にその経緯を聞きました。
――2020年を最後に引退していたトンプソン選手の電撃復帰には驚きました。もう40歳ですよね。
内山浩文: おかげさまで会見後の反響も大きく、Twitterのトレンドに上がっていました。私たちはエンターテインメントを追求していかなければいけないフェーズに入ってきている。その意味で今回の“サプライズ”は効果的だったと思っています。ファンやメディア以外からも意外な反応がありました。
――意外な反応とは?
内山: ある選手の代理人の方によると、現役を離れた外国出身選手の中に“自分も引退したけど、まだやれるんじゃないか”という選手が増えてきているというんです。加齢とともにチャレンジする意欲が薄れ、競技から引退したアスリートはたくさんいる。その人たちを勇気づけられたという意味で、今回の会見はすごく効果的だったのかな、と。
――改めて復帰までの経緯を教えてください。
内山: 昨シーズンが終わった後、選手の移籍などでロックのポジションが薄くなっていました。カテゴリA(日本代表実績を持つ選手または同資格を持つ選手)のロックを探していました。その時、たまたまトモさんを担当する代理人の方に「トモさん(トンプソン)、どうですかね?」と聞いたところ、最近ニュージーランドのクラブで復帰したと。それで「ぜひ話したいんですけど」とお願いしたところから始まりました。
――トンプソン選手も復帰には前向きだったのでしょうか。
内山: はい。これまでジャパン、近鉄(現・花園近鉄ライナーズ)でプレーし、ほとんど休みがなかった。現役を離れたことで、ようやく1年以上のオフをとることができた。そこで改めて自分のコンディションを確認したところ、“まだまだやれるんじゃないか”という気持ちになったようです。オンラインミーティングで「コンディションはいい状態に戻ってきている。クラブレベルでもプレーした」と本人から直接聞きました。彼は嘘をつく人間ではないので、その点は心配していません。
――ピッチ外で期待することは?
内山: それももちろんあります。獲得の前に今季からチームに加入したロックのジェームス・ムーアと話しました。ジャパンでトモさんとプレーしたことのある彼は「トモさんが自分の能力を引き上げてくれた」と言っていました。ラグビーには二つの成長パターンがある。一つはコーチングでテクニカルを伸ばすこと。もう一つは目の前にいるプレーヤーを追いかけること。よく“背中を見て育つ”と言いますが、トモさんは選手たちの手本になるタイプです。チームには20代の外国人選手が増えてきているので、ぜひトモさんを手本にして欲しい。
――サプライズという意味では、オーストラリア代表のユーティリティーバックス、イズラエル・フォラウ選手の獲得もそうです。同国代表73キャップを持つ一方で、同性愛を嫌悪する発言を繰り返したため、オーストラリアラグビー協会を解雇されたという経歴の持ち主です。
内山: 彼の過去の発言については、私たちがコメントできる立場にありません。だから私たちは噂レベルだけでなく彼の本当の人柄を知ろうとしました。シャイニングアークスに2年間在籍した元オーストラリア代表スタンドオフのクリスチャン・リアリーファノは「フォラウを獲るべき。彼はチームマンだ。100%オススメしたい」と太鼓判を押してくれました。またフランカーのリアム・ギルによると「ものすごくシャイで問題を起こすような人間ではない。彼はスペシャルな選手」と。そこまで言われれば、彼を獲ることに迷いはありませんでした。
――スーパーラグビー(SR)で歴代最多の60トライを記録しています。
内山: 彼は1人で試合の流れを大きく変えることのできる“ゲームチェンジャー”です。今年8月に採用された新ルール「50:22ルール」(自陣から蹴ったボールが敵陣22メートルライン内で間接的にタッチラインを割った場合、ラインアウトは蹴ったチーム側のボールになる)により、インプレー中のキックの重要性が増してきた。手足が長く、バネがあるフォラウは、ハイボールに強い。また1人で状況を打破でき、トライを獲り切る能力も高い。守備面でも、彼をフルバックに置けば、相手はカウンターアタックを怖がり、容易にキックを選択できなくなるでしょう。昨季、私たちはボーデン・バレット選手ら1人で試合の流れを変えることができるプレーヤーを擁するサントリー(現・東京サントリーサンゴリアス)に31対94で大敗し、個の力を痛感しました。それも彼を獲得した理由のひとつです。
――さらに宗像サニックスブルースからは、ジャパンのロックとして抜群の安定感を誇るムーア選手を獲得しました。
内山: 彼はフィジカル的なロックというよりはリンクプレーヤー。チームのプレースタイルにも合っている。ムーアがサニックスを離れると知り、是が非でも獲りたいと思っていました。
――現役ジャパンのメンバーでカテゴリAの選手。他のチームとの争奪戦も激しかったのでは?
内山: 実際、相当引っ張りだこでしたよ。ムーアには、私たちのビジョンを伝えました。ディズニーランドなどを運営するオリエンタルランド、航空会社のJAL、老舗和菓子屋の船橋屋と「スポーツ共創パートナー」を結ぶことや、海外クラブとのリレーションを深めることなどを話しました。ウチはラグビー界の古い概念やルールを覆す“ゲームチェンジャー”だと。彼と話をした翌日、「お世話になります」と連絡がきました。
――今、お話にあった「スポーツ共創パートナー」は、いずれもホストエリアの千葉県浦安市及び周辺地域に縁のある企業ですね。
内山: 今後、事業性、社会性を高める際、自分たちだけでは補えない部分がある。例えばエンターテインメントを追求するためにはディズニーランドから学ばなければならない。JALのCA(キャビンアテンダント)からはお客様サービスにおける徹底的な教育を受けています。また船橋屋からは創業200年以上続く伝統、ものづくりへのこだわりなどを伝授していただく。これらのパートナーと今はまだノウハウをシェアし合う関係ですが、ゆくゆくはチケット特典みたいなこともできればいい。
――リーグワンは1月7日から開幕します。シャイニングアークスのゲームチェンジャーぶりに期待しています。
内山: ありがとうございます。結果だけでなく、ラグビーのエンターテインメント性も求めていきたい。スポーツの可能性は勝つことだけではなく、もっと多面的な価値があると思っています。私たちはそうした価値を一つでも多く世に発信することで、ラグビー界、スポーツ界のみならず社会を変えていきたい。そのためには、失敗を恐れずトライ&エラーの精神で突っ走りたいと考えています。
<内山浩文(うちやま・ひろふみ)プロフィール>
1980年11月12日、宮崎県生まれ。小学5年でラグビーを始め、中学はソフトテニス部に所属。日向高校から本格的にラグビーを始め、中央大学、社会人チーム、NTTコミュニケーションズでプレーした。09年に現役を引退。2年間社業に専念した後、11年度からはチームコーディネーターとして、金正奎など現在の主力を加入させた。16年には日本ラグビー協会に出向。17年からGMに就任した。
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