10月末から4週に渡り、ヨーロッパ各地で行われたオータム・ネーションズシリーズが終了しました。2年後のW杯フランス大会に向け、どの国・地域も着々と強化を進めています。ジャパンと1次リーグ同組のイングランド代表はシリーズ3戦全勝。若手を積極的に起用するエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)の采配も光りました。
今年に入り、ジョーンズHCは20名以上の選手を代表デビューさせました。今回はジャパンの脅威となり得る22歳のスタンドオフ、マーカス・スミス選手を紹介します。
スミス選手はイングランド出身の父、フィリピン出身の母との間に生まれました。出生地はフィリピンの首都マニラ。7歳でラグビーを始め、2011年にイングランドへ移住すると、奨学金を受けてイギリスの名門ブライトン・カレッジに入学しました。
ブライトンと言えば、2015年W杯イングランド大会で、ジャパンが南アフリカ代表に大金星をあげた地です。ジャパンにとっては思い出の地でジョーンズHCと、当時16歳のスミス選手は出会いました。
<当時日本代表のヘッドコーチだったジョーンズは歴史的番狂わせを起こす南アフリカ代表戦の3日前、ブライトン・カレッジの一軍の試合をタッチライン近くに立って見ていた>(「RUGBY REPUBLIC」2017年9月20日配信)
その後のスミス選手は、各年代の代表に選出されるなど順調にキャリアを重ねていきます。17年にプレミアシップのハーレクインズに入団し、18歳の若さでプロデビューを果たしました。19年W杯日本大会のメンバー入りはかないませんでしたが、今季のプレミアシップではチームを9季ぶりの優勝に導きました。
7月のアメリカ代表戦で待望の初キャップを記録。オータム・ネーションズシリーズでは全3試合に出場し、合計32得点をあげました。現在、乗りに乗っている若手の1人で、ワールドラグビーアワード2021では最優秀新人賞に当たる「ブレイクスルー・プレーヤー・オブ・ザ・イヤー」にノミネートされました。まだキャップ数は5ですが、イングランド代表の10番がよく似合います。
身長170センチ、体重82キロとラグビー選手として小柄ながら、その存在感はピカイチです。独特の間合いから繰り出すパス、スピーディーなラン、正確なキック。どれをとっても一級品です。11月13日(現地時間)のイングランド代表対オーストラリア代表戦で、WOWOWの解説を務めた元ジャパンの大西将太郎さんは「ボールを持てばワクワクさせてくれる」と絶賛していました。
「予測する力、周りを生かす力に長けている。自分で(チームに)推進力を生み出すこともできるファンタスティックなプレーヤーです」
オーストラリア戦では前半7分、フルバックのフレディー・スチュワード選手のトライを演出しました。キャプテンでセンターのオーウェン・ファレル選手から中央でボールを受けると、一度パスダミーで敵を幻惑し、すぐさま柔らかいパスを放りました。絶妙のタイミングでパスを受け取ったスチュワード選手が抜け出し、インゴール左中間に飛び込みました。
チームのメインキッカーであるファレル選手が後半28分に負傷交代すると、その後はスミス選手が、その役を引き継ぎ、試合終了の笛が鳴るまでに2本のキック(1PG、1G)を決めました。涼しげな表情でキックを成功させるところに彼のセンスが見て取れます。
持ち前のセンスは、翌週の南アフリカ戦でも発揮されました。世界ランキング1位の南アフリカとは19年W杯決勝以来、2年18日ぶりの対戦です。この日は前節でケガをしたファレル選手が欠場。プレースキックは全てスミス選手が担当しました。期待に応えたスミス選手は前半3本(1PG、2G)のプレースキックを一度も外しませんでした。
この日のハイライトは、南アフリカに24対26と逆転を許したゲーム終盤に訪れました。後半36分、スミス選手は絶妙な位置にチップキックを蹴り込みました。このボールをキャッチした味方にフランカーのシヤ・コリシ選手が空中で体当たりするかたちとなり、イングランドがペナルティーを獲得。レフリーに危険なプレーと判断されたコリシ選手はシンビンを科されました。結果として相手を数的不利に追い込むキックとなりました。
39分にはランで魅せます。左サイドでアドバンテージを受けたイングランドは、なおも攻撃を継続しました。中央でボールを持ったスミス選手がスルスルと突破、ゴールまで約25メートルに迫ったところで、たまらず相手が反則を犯しました。ほぼ正面ではあったものの、このPGが決まるか、決まらないかでは大違いです。8万人を超える大観衆が見つめる中、22歳の若き司令塔はきっちり任務を遂行しました。右足から放たれたボールはゴールポストのど真ん中を通過し、27対26。スミス選手は2試合続けてプレースキック成功率100%を記録しました。
創造性豊かなゲームメイク、正確無比のキック、独特のステップから繰り出すラン。ジャパンにとっては、脅威以外の何物でもありません。今後は77キャップのジョージ・フォード選手らと司令塔の座を争うことになるでしょう。本番まであと2年。ジャパンはマーカス・スミス対策を練る必要がありそうです。
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