前回に引き続き、“ミスターラグビー”平尾誠二さんの言葉を噛み締めたいと思います。今回紹介するのは、神戸製鋼(現コベルコ神戸スティーラーズ)の日本選手権連覇が7で途切れた9カ月後に行ったものです。
1995年度のシーズン、新日鐵釜石を超えるV8に挑戦した神戸製鋼でしたが、準々決勝でサントリー(現東京サントリーサンゴリアス)と20対20で引き分け、トライ数の差で準決勝には進めませんでした。95年1月に起きた阪神・淡路大震災の影響もあったでしょうが、平尾さんはそれについては言及せず、“敗因”は「チーム内にある」と言い切りました。
「“楽して勝とう”ということですよ。ゲームに慣れてくると、誰しもリスクを負いたくないし、早い時間で勝負を決めたいと思うようになる。それが知らず知らず身についてしまったんでしょうね。神戸のいいところは少々のリスクをかえりみず、どんどん攻めるところにあったのですが、そうした本来の目的を忘れ、より効率よく仕事をしよう、無駄を省こうという考えが強くなってきていた。それが“楽して勝とう”という意識につながったと思うんです」
そして、「目的と手段の違い」について持論を展開しました。
「部屋の掃除に例えるならば、最初は住みやすくするためにゴミを拾い集めていった。ところがゴミを拾っているうちに、それ自体が目的と化し、もう十分きれいになっているんだけど、たったひとつのゴミが気になって仕方がない。ホンマ、習性というのは恐ろしいもんですわ。
無駄を省くということは、ただ勝つために必要だと思ってやってきただけのことで、最終的な目標ではなかったんです。僕も勉強になりましたよ。無駄を省くというのは確かに大切なことだけど、そればかりやり過ぎるとあかんということをね。それは身をもって感じました」
これを平尾さんは“大企業病”と表現し、こう続けました。
「ある程度チームが整備されてくると、無駄もなくなり、コストまでかけて“新製品”をつくろうとする意欲が薄れてくる。それが“楽して勝とう”という意識につながってしまったんです」
今から26年前のインタビューですが、少しも古びた感じがしないのは、平尾さんが絶えず先を見ていたからでしょう。
この頃、平尾さんは「イメージをマネージできることがラグビーの最大の醍醐味」とよく話していました。私が「失敗するとダメージになりますよ」と混ぜっ返すと、「まあ、それも成長への過程ですよ」と笑っていました。
「ラグビーというスポーツは無限に走れる。他のスポーツだったら、3歩までだとか、当たってはいけないとか、いろいろな制約があります。ところがラグビーというスポーツはボールを持ってどこまでも走れるし、当たるもよし、かわすのもよし、時には蹴ってもいい。要するに絶えず自分が判断を下して次のプレーへとつなげていく。そこに面白さがあるんです。こんな愉しいスポーツは他にない」
にもかかわらず、そうしたラグビーの良さが、この国では伝えきれていない、と平尾さんは言うのです。
「日本のスポーツは、体育会系的な体質とでもいうのでしょうか。“そんな自由な練習で勝てるのか”とか、“負けたら世話になった人に申し訳ない”とか、そんなことを言う指導者がものすごく多いんです。勝利の喜びとか克己心とか、それはスポーツが持っている本来の魅力とは違うんじゃないか。そこはずっと以前から疑問に思っていました」
いきおい話は企業の在り方にまで及びました。
「昔の企業は体育会系の学生を就職に際し、とても重用しました。その理由は上の人間の言うことなら何でも聞く、言われたことに対しては脇目もふらず100%頑張るといったものでした。でも、もうそんな人間は通用しない。企業が欲しがっているのは自らの発想で新しいものをクリエイトしていく自由な人間です。だから、僕は若い選手に“イマジネーションを大切にしろ”とよく言います。これが抑圧されてしまうと、いいプレーもいい仕事もできない。素晴らしいイマジネーションを持った人間が結合していくことで、どんどん新しいものが生み出されていくのではないかと僕は思うんです」
今読み返すと、“失われた30年”の原因を解説してもらったような気にもなります。平尾さんはラグビー界のみならず、この国にとって必要な人だったことに改めて気付かされます。
(了)
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