「攻撃だけやって取られて守備しねえで、それでキレてんじゃねえ。やることやってからキレろよ」「守備してるし!」「してねえよ!」「してるよ!」。ロッカールームの口論まで収録されているサッカーJ1の湘南ベルマーレの2018年イヤーDVDが話題になっています。
こうした環境をつくりあげたのは湘南の曺貴裁監督です。チームを率いて今季で8シーズン目です。
曺監督は歯に衣着せぬ物言いで知られています。過日、会った際には、こんな話を披露してくれました。
「オレは結構、“オマエのせいで負けた”と言います。ソイツにはそれを受け止めてほしい。個人の責任をチームの責任などでオレはすり替えない」
ロッカールームの口論はサッカーの世界では珍しくありません。強かりし頃のヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)には、こんな出来事がありました。
ある試合で、柱谷哲二さんとビスマルクさんが大げんかをし、熱くなった柱谷さんがあろうことかビスマルクさんに頭突きを入れてしまったのです。仲裁に入ったのがチームメイトの都並敏史さんでした。
「やめろ! けんかなんかしている場合かよ」
ハーフタイムでロッカールームに入ってからも、2人は激しくやり合っていました。そこに登場したのがネルシーニョ監督です。
「オマエら何やっているんだ! 出ていくならさっさと2人とも荷物をまとめて出ていけ!」
そう叫ぶなり、近くにあったテーブルをひっくり返してしまったというのです。
恐れをなした柱谷さんとビスマルクさんが押し黙ったのは言うまでもありません。
振り返って都並さんは語ります。
「普通の指導者なら、選手たちがけんかを始めても無視するか、なだめるか、せいぜい“いい加減にしろよ!”というくらいのものでしょう。ところがネルシーニョは選手たちの“怒り”を“発狂”という手段で制したんです。自らがより強力な怒りのオーラを発することで2人を屈服させ、僕たちの気持ちをもう1度ひとつにまとめ上げてみせた。きっと彼の頭の中にはパニックも含め、あらゆる状況を想定した処方箋が用意されていたのでしょう」
ラグビーにも身内のバトルはあるのでしょうか。早大で曺監督の1年先輩にあたるヤマハ発動機ジュビロ前監督の清宮克幸さんから面白い話を聞きました。
それは14-15シーズンのトップリーグファーストステージ第3節パナソニック ワイルドナイツ戦での出来事です。ヤマハスタジアムでの試合、前半を終えヤマハは6対11と劣勢でした。
以下は清宮さんの回想です。
「前半、ヤマハはパナソニックにスクラムを押されていた。それはありえない。絶対ヤマハの方が強かったですから。試合の途中からスクラムコーチの長谷川慎に対し無線で怒鳴りまくったんです。そして前半が終わった直後、下で怒鳴り合いのけんかになってしまった……」
「あんなに押されるわけないだろう!」「スクラムはこっちが責任もってやっているんだから黙っといてくれ!」「なんだとォ!」
選手たちは2人の剣幕に押され、ロッカールームに入ることができなかったそうです。
この話は15年W杯イングランド大会でコーチングコーディネーターを務めた沢木敬介さんの耳にも入りました。
「みんな言っていましたよ。ちょうどワールドカップの前にジャパンの合宿があり、“慎さんと清宮さんがハーフタイムでマジで喧嘩していた”って」
この話には後日談があります。試合後、2人は連れ立って食事に出かけたそうです。口論はノーサイドになりました。このシーズン、ヤマハはマイクロソフトカップ準優勝、日本選手権優勝を果たしました。指導者の本気の言い争いがチームに活気を生んだとも言えます。
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