トップリーグ(TL)・NTTドコモレッドハリケーンズの動きが活発です。W杯日本大会優勝に貢献した南アフリカ代表ウイングのマカゾレ・マピンピ選手、ニュージーランド代表スクラムハーフのTJペレナラ選手らビッグネームを相次いで獲得しました。2011年度にTL昇格以降、落ちたり上がったりを繰り返しているNTTドコモ。下沖正博GMに強化の狙いを聞きました。
――20年度から南アフリカ出身のヨハン・アッカーマンヘッドコーチ(HC)が指揮を執ります。新たにマピンピ選手、ペレナラ選手、スタンドオフのオーウェン・ウィリアムス選手という南アフリカ、ニュージーランド、ウェールズで代表経験のある選手が加わりました。
下沖正博:再来年には新リーグが始まりますが、まずは今季しっかりと結果を残さないといけない。ビッグネームが欲しくて彼らを獲得したわけではありません。チームとしてはなかなか結果が出ず、昇降格を繰り返してきました。結果を残せなかった理由として、チームカルチャーやラグビースタイルの確立ができていなかったことがあげられます。そこで勝つために努力を惜しまないチームカルチャーとアグレッシブなラグビースタイルを確立していきたいと考え、HCを含め、必要なポジションに必要な選手を招聘することを決めました。
――マピンピ選手はW杯日本大会で6トライをあげるなど南アフリカの優勝に貢献しました。14キャップで14トライを記録した決定力が魅力です。
下沖:我々が目指しているのは、とにかくボールを動かしていくラグビースタイル。そのためにもウイングを含めたバックスリーのポジションが重要だと判断しました。突破力のあるマピンピがアウトサイドに位置することにより、相手の警戒は自ずと外側に向けられることでしょう。これにより、攻撃時には裏のスペースへのキックパスなどいろいろなオプションが使えるようになる。個人でこじ開けられる力強さも含め、彼がチームに来たメリットは計り知れない。
――ペレナラ選手は?
下沖:ボール捌きがいいのは見ての通りですが、我々はディフェンス面も評価しています。スクラムハーフなのにまるでフランカーのようなディフェンスをしますよね。
――ハカのリーダーを務めるなど、その存在感はニュージーランド代表でも抜群です。
下沖:そのリーダーシップに期待しています。彼のメインポジションであるスクラムハーフのメンバー以外にも良い影響をもたらしてくれるでしょう。アシスタントコーチの竹内克によると、ペレナラは、すごくチーム愛が強い選手。地元のクラブチームにも時間があれば出向き、時にはウォーターボーイを買って出ることもあるそうです。地元では英雄のような存在ですが、一切驕ったところがないそうです。
――マピンピ選手とペレナラ選手には、これまでの経験で培った“勝者のメンタリティー”を注入してほしいと?
下沖:そうですね。それはすごく期待しているところです。既にニュージーランド代表のテストマッチに参加しているペレナラ以外は合流し、トレーニングに参加しています。マピンピはもう少しおとなしい選手かと思っていましたが、練習では自分からコミュニケーションを取っていました。
――アッカーマンHCは、下沖さんが監督を退任した15年度終了時にも声をかけていたそうですね。
下沖:チームからは「できれば後任を探しいほしい」と言われていました。当時、彼が指揮を執っていたスーパーラグビーのライオンズ(南アフリカ)は、南アフリカのオーソドックスなラグビーというより、どこからでもアタックするアグレッシブなラグビーを展開していました。NTTドコモでもこういうラグビーをしたいという思いがあり、16年に一度お会いする機会を設けていただき、ライオンズを強豪にした経緯や、もし我々のチームに来たらどうするかをヒアリングさせてもらった。
――しかし、この話は流れました。
下沖:あれだけのコーチですから、チーム側も離さなかったんです。
――アッカーマンHCは南アフリカで年間最優秀コーチ賞に3度輝いています。今回は“4年越し”の想いが叶いました。
下沖:今回、交渉した際の彼の反応は非常にポジティブでした。「4年を経て、また声を掛けてくれたことに感謝している」と。ヨハンはしゃべり口調も穏やかで、一言一言に重みがあります。練習はハードで、選手たちも「過去最高の監督」と言っていますね。
――最初のミーティングでは選手にどんなメッセージを?
下沖:彼が常々言っているのは、「努力を惜しまないチームにしたい」ということです。ひとつひとつの振る舞い、努力こそが大事だと。具体的に言うと、トレーニングでセッションからセッションの間、だらだら歩いていたりすると厳しい反応を示しますね。
――選手も気が引き締まりますね。
下沖:ピリッとしましたね。練習が終わった後、「非常にいい練習だった。ハードワークを全員がしてくれた。ただ1点だけ残念なことがあった。セッション間でしっかり走っていない選手がいた。そして、それを見逃していた。そういうのをなくしていきたい」と。ヨハンは先月に合流したばかりですが、これによりチームの雰囲気はガラッと変わりましたね。
――叱るにしても、まず褒めることから始める。
下沖:そうですね。基本は選手に感謝の気持ちとリスペクトを持っている。それは常々、彼の口から出てくる言葉で明らかです。加えて彼は「グラウンドから外に出れば、俺たちは家族だ。気になることがあったら言ってくれ。俺も人間なので気付かないこともある。なんでも言ってくれ」とも話します。トップダウンの指導者では全くないですね。
――新リーグへの準備も始まりますね。
下沖:新リーグは地域密着の色を出しています。我々も自分たちでスポンサーを集めたり、チケッティングやマーチャンダイジングなど事業性を高める活動にも取り組まなければなりません。新リーグは「社会的意義のあるスポーツとしてのラグビー」を標榜している。ただ強くなるだけではなく、社会にとってなくてはならない存在になる必要があるということですね。現在は、まだ大阪で「ラグビーと言えばNTTドコモレッドハリケーンズ」と名前があがるほどには至っていません。今後は大阪での認知度を上げていくため、プロモーションも積極的にやっていきたいと思っています。ファン獲得という意味もありますが、認知度が上がれば、仲間やパートナーもどんどん増えていく。地域のハブとなり、社会課題の解決に貢献できる存在になりたいと思っています。
――ところでNTTドコモと同じ大阪を拠点にするアイドルグループNMB48の渋谷凪咲さんが公式アンバサダーに就任しました。
下沖:ラグビーといろいろなものを掛け算しながら、盛り上げていきたいという思いがあります。アンバサダーの条件はラグビーに興味があり、好きだということ。そこでバラエティ番組などでも活躍する彼女に我々からオファーしました。
――アイドルが公式アンバサダーを務めるというのは珍しい。
下沖:おっしゃるように、あまりラグビー界では例を見ないことです。彼女がアドバイザー就任をSNSで発信してからの反応は良く、ファンからのコメントには「これから応援してみよう」というものもありました。異業種とのコラボが新たなファン層獲得に結びつくとことが早くも実感できました。
――最後にトップリーグラストイヤーへの意気込みを。
下沖:チームとしてはトップ8入りが目標です。新リーグのディビジョン分けの条件はまだ決まっていませんが、ベスト8は是が非でも達成したい。コロナの影響で外国人選手の合流が大幅に遅れ、想定外の事態となりましたが、選手、スタッフ1人1人が今できることにフォーカスしてきました。現時点では非常にいい準備ができていると感じています。
<下沖正博(しもおき・まさひろ)プロフィール>
1975年12月10日、宮崎県出身。現役時代はロックとしてプレー。都城泉ケ丘高、龍谷大を経て、98年にNTTドコモ関西に入社。10シーズンプレーした後、現役引退。一旦は社業に専念したが、11年度からコーチ/プレイヤーサポートとしてチームに復帰した。13年度からヘッドコーチに昇格。3シーズン指揮を執った後、再び社業に専念した。18年度からGMに就任し、現在に至る。
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