二宮清純
二宮清純コラム ノーサイドラウンジCOLUMN
2019年3月22日(金)更新

<ジャパン激闘史①>
「ブライトンの奇跡」秘話
正座が生んだ最適スクラム

 40歳の大野均選手は2007年フランス大会、11年ニュージーランド大会、15年イングランド大会と3度のW杯に出場しているジャパンを代表するロックです。通算98キャップはジャパン歴代最多。もちろん今も現役で、「現役選手である以上は諦めていません」と4度目のW杯出場を虎視眈々と狙っています。モットーは「灰になっても、まだ燃える」。不屈の男に、これまでで最も印象に残るW杯について聞きました。

勝因はセットプレー

大野均:それは15年のイングランド大会です。初戦の南アフリカ戦に照準を合わせて準備をしてきましたが、まさかあんな結末になるとは……。

――大野選手はロックで先発出場。後半13分までピッチにいました。戦っていて“いけるかもしれない”と手応えを感じた時間帯は?

大野:19-19の同点で南アフリカがペナルティーを獲得した時にショット(PG)を狙うと選択した場面ですね。相手が勝ち急いでいて、“僅差でもいいから勝とう”という気配が伝わってきました。ジャパンからすれば、タッチキックを蹴られてラインアウトからモールを組まれる方が嫌でした。それに、このプレーの前に南アフリカがモールを組んできたシーンがありました。その時に彼らはモールで普通に押してくるのではなく、サインプレーを仕掛けてきました。その時に“今日はいけるぞ”と感じましたね。

――最大の勝因は?

大野:セットプレーだと思います。それまでのジャパンはセットプレーを弱点と捉え、試合中にスクラムを組む時間をいかに短くするかという考えでした。だがエディーさんはスクラムでも世界に通用するという考えで4年間をスタートさせました。

――当時のジャパンはフランス人のマルク・ダルマゾコーチがスクラムを指導していました。

大野:フランスはスクラムに強いこだわりを持つ国です。スクラムマシンはフランスが最新のものを所有していると聞いたことがあります。マルクさんは「日本人は正座ができるから低いスクラムを組める」と言っていました。だから他国には真似できない低いスクラムを追求するんだと。

――ファーストスクラムで相手の力量が分かると言います。

大野:ファーストスクラムはとても重要です。レフェリーもその試合の指針にします。

――ラインアウトも強みになりましたね。

大野:相手が反応する前に飛ぶ。サインに合わせてスローワーもリフトする選手もドンピシャになるよう練習してきました。他にもスピーカーで大音量の音楽を流してサインコールの声が届かないような状況をつくって練習しました。

――後半28分に生まれたフルバック五郎丸歩選手のトライもラインアウトからの見事なサインプレーでしたね。

大野:会心のトライでした。ただあのサインプレーは練習中に一度も決まったことがないものでした(笑)。

「ビート・ザ・ボクス」

――終了間際にペナルティーを獲得した際、キャプテンのリーチ・マイケル選手は同点狙いの「ショット」ではなく「スクラム」を選択しました。エディーさんは「ショット」の指示でした。

大野:最後の最後にカーン・ヘスケスのトライが決まるまで勝てるとは思っていませんでした。勝った瞬間、どういう感情だったか思い出せないんです。それぐらい必死だったんでしょうね。大会後、南アフリカへ遠征した時、現地の方に「オオノ!」と声を掛けられました。改めて、その試合の影響力の大きさを感じました。

――イングランド大会での成功要因に「準備力」があげられます。

大野:エディーさんはどのチームに対しても常に勝ちにいく姿勢でした。南アフリカに勝つ練習は組み合わせが決まった時点で始めていました。ジャパンの練習メニューに「ビート・ザ・ボクス」というものがありました。南アフリカ代表の愛称であるスプリングボクスをもじったものです。「南アフリカを倒す」。それが一番きつい練習でした。

――具体的にはどんな内容の練習を?

大野:自陣から攻撃を始めて、4フェーズ以内にボールを敵陣まで運ばなければならないんです。それができないと、「ターンオーバー」。相手ボールになり、今度はそこから守り切る練習をしました。このきつい練習があったからこそ、本番で守り切れたんだと思います。

――この試合を担当するレフェリーを合宿に呼ぶなど、ジャパンは周到な準備をして試合に臨みました。

大野:南アフリカはジャパンの分析をしていなかった。スクラムハーフのフーリー・デュプレアら日本でプレー経験のある選手は「日本は強いからもっと分析した方がいい」とスタッフに進言したようです。しかし、そこにフォーカスすることはなかった。

――エディーさんは常に選手、スタッフに「ハードワーク」を求めていました。

大野:エディーさんの練習は理不尽でした。ウエイトトレーニングひとつとっても、それまでの常識では筋肉をいじめた後に休む時間を取ります。そうしないと筋肉は回復しませんから。でも、エディーさんは1日に3回ウエイトをやらせるんです。僕たちは常に筋肉痛の状態で、“いつ回復するんだろう”と(笑)。それまでの常識をひっくり返された4年間でした。

――「理不尽」だからこその偉業とも言えますね(笑)。

大野:そうですね。ただW杯で3勝できなかったらチームで暴動が起きていたかもしれません(笑)。大会直前にエディーさんが大会後はジャパンを離れるという報道が流れました。それがよかったのかもしれない。エディーさんを男にしようと。

<大野均(おおの・ひとし)プロフィール>
1978年5月6日、福島県生まれ。東芝ブレイブルーパス所属。清陵情報高までは野球部。日大工学部に入ってラグビーを始め、01年、東芝に入社。体格を生かしたフィジカルの強さとスピードを武器にロックのポジションで活躍し、トップリーグでは9度のベスト15に輝く。日本代表では04年5月にデビュー。07年、11 年、15年と3度のW杯に出場。その後もコンスタントにテストマッチ出場を続け、14年5月に日本代表の歴代最多キャップ数を更新。現在は98キャップ。身長192センチ。著書に『ラグビーに生きる』。 

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