日本ラグビー協会は6月26日、新役員人事を発表しました。森重隆会長が退任し、名誉会長に。新会長には元日本代表で、サントリーホールディングス常務執行役員の土田雅人さんが選任されました。
新会長のプロフィールを簡単に紹介します。秋田工高で主将を務め、同志社大では平尾誠二さんとともに全国大学選手権3連覇を経験しました。同大卒業後、1985年にサントリーに入社。現役時代はフランカー、ナンバーエイトとして活躍。95年に監督としてチームを初の日本一に導くなど、3度の日本選手権優勝に貢献しました。ラグビーにおける実績はもちろんですが、ラグビー選手が大企業でここまで出世するのは異例です。その点も高く評価されたようです。
土田さんは会長就任に際し、三つの公約を掲げました。
一つは、もう一度ラグビーW杯を日本、アジアへ招致すること。土田さんは「そのためには、代表チームの強化はもちろんですが、日本ラグビー協会が世界ナンバーワンの協会になること、世界と対等に仕事ができる協会になること」と言います。
二つ目はW杯で男女ともにベスト4以上を狙えるチームをつくること、そしてセブンズ(7人制)でオリンピックのメダルを獲ること。過去におけるW杯の最高成績は男子のベスト8(2019年日本大会)、セブンズは男子4位(16年リオデジャネイロオリンピック)です。新会長はどのカテゴリーでも史上最高の成績を目指すことを明言しました。
三つ目のミッションはラグビー人口の増加。土田さんはこう意気込みます。
「三支部(関東・関西・九州)協会、都道府県協会と手を組み、一人でも多くの子どもたちがラグビーをできる環境を整備する。ラグビーファミリー全体でプレーヤーを支えていけるよう、協会が中心となって取り組んでまいります」
私が知る土田さんは「有言実行」の人です。2000年度、サントリーの監督に2度目の就任した時のことです。
「1年で優勝を目指す。できなかったら責任をとる」
サントリーは95年度に初の2冠(全国社会人大会、日本選手権)を達成したものの、以降4シーズン、日本一から遠ざかっていました。全国社会人大会は2度準優勝。土田さん曰く「万年大関」のような状況でした。大関を横綱にするために、どんな方法を用いたのか。自著『「勝てる組織」をつくる意識革命の方法』(東洋経済)で、土田さんはこう記しています。
<惨たんたる現状を把握したうえで、私はこう宣言し、あえて不可能と思える目標を掲げました>
サントリーの佐治信忠社長(現・会長)からは「3年で優勝してくれ」と再建を任されたそうですが、土田さんはあえて「1年目に優勝」と勝負に出たのです。それには理由がありました。再び先の書を引きましょう。
<目標は厳密に実現可能性を考えると、目標の持つ力が失われてしまいます。どうすれば達成できるかという現実的なことはあまり考えずに、むしろ夢に近いような目標を立てる。マネジメントでいちばん大事なのは、目標やターゲットをきちっと決めることだと思います。すると、目標を目指してみんなの力が一点に集中し、予想もしない大きな力が発揮されて、それまでできなかったこともできるようになります。目標が中途半端であったり、ふらつくのがいちばんよくない。みんなの力をどこに向けるのかをきちっと決める。そこにリーダーとしての役割と能力が問われるのです>
復帰初年度は全国社会人大会でベスト4、日本選手権決勝では神戸製鋼との同点優勝ながら5年ぶりの日本一に輝きました。公約通りに「1年で優勝」を実現してみせたのです。翌シーズンは全国社会人大会と日本選手権の2冠を達成とチームを「横綱」に押し上げたのです。
以前、土田さんに「リーダーの最大の条件とは何か?」と尋ねたことがあります。これまで私は数多くのスポーツ指導者、指揮官に同じ質問をぶつけてきましたが、「解決力」との土田さんの答えが一番胸にストンと落ちるものでした。
「失敗してもいい。その場その場で判断し、早めに手を打つ。後手に回っちゃダメ。スピード感が大切。失敗したら、また次の手を考えればいい。懸案を放置せず、ひとつひとつ解決していく。その道筋をきちんと示してあげれば選手たちは付いてくる。何もやらずに、ただ時間だけが過ぎる。そして手遅れになる。これが一番良くない」
サントリーの創業者・鳥井信治郎さんの口ぐせは「やってみなはれ!」。その言葉を噛みしめながらの土田丸の船出です。
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