近年、副業・兼業を認める企業が増えてきていますが、ラグビー界にもプレーヤーとレフリーを“兼業”するトップリーガーがいます。トップリーグ(TL)トヨタ自動車ヴェルブリッツのスクラムハーフ滑川剛人選手です。レフリーとしては20日、トップチャレンジリーグ(TCL)の順位決定戦準決勝(近鉄ライナーズ対コカ・コーラレッドスパークス)を裁きました。
もちろん本業はラグビー選手です。開幕から4連勝と勢いに乗るトヨタ自動車で3試合に出場しています。いずれも途中出場ながら、フィニッシャーとしての仕事を全うしました。第2節のNTTコミュニケーションズシャイニングアークス戦では、終了間際の後半38分にパスダミーで相手を翻弄し、そのスキを突く見事なトライをあげました。
「自分の役割はゲームを締めるところ。後半20分に入って、どういう展開であれ、チームをいい方向に持って行くというかじ取り役が自分には合っている。そこは自信持ってプレーできている点だと思います」
滑川選手の働きぶりをサイモン・クロンヘッドコーチ(HC)はこう評価します。
「滑川は素晴らしい人間で素晴らしいプレーヤーです。リーダーズとしてもフィールドに出てくるたびに、チーム全員にエネルギーを持ち込んでくれる。また全員がルールを理解する面でも助けてくれる。練習中にレフリーをしてくれることもあるんです。滑川が将来、日本でベストなレフリーになることを楽しみにしています」
ベストなレフリー――。滑川選手はチームの試合がない週(2月13日、3月20日)には、レフリーとして笛を吹いています。
「レフリーは選手とのコミュニケーションを図る上で、選手たちの中に入っていかないといけません。その方が、お互いにとって楽。ラグビーはグレーゾーンが多いスポーツ。間違うことだってあるかもしれない。レフリーと話し合って解決できるなら、可能な限り話し合った方がいい。『今のブレイクダウン、自分はこう見えたんだけど、どうだった?』。そういう一言を入れるだけで、いいプレーや判定は生まれる。そこを非常に大事にしています」
さて滑川選手が、レフリーとの兼業を発表したのは2019年12月のことです。日本ラグビー協会がインターナショナルレフリーを育成するために設けた「審判部門TIDプログラム」に参加したのです。現役トップリーガー第1号でした。
「僕はレフリーを引退する以前からスーパーラグビー(SR)のレフリーコーチとしてキャンプやカンファレンスに参加していました。そこでSRでのプレー経験がある元トッププレーヤーのレフリーが出てきていることを知り、TLのチーム関係者に『現役選手でレフリーをやりたいという選手はいませんか?』と声を掛けていたんです」(日本ラグビー協会技術委員会審判部門・原田隆司ハイパフォーマンスレフリーマネージャー)
しかし、最初からレフリーに前向きだったわけではありません。「第二のラグビー人生の幅が広がる」との思いが、兼業挑戦の決定打となりました。
再び原田さんです。
「コミュニケーション能力、ゲームを読む力、いろいろなことに気付ける力……。もちろんフィットネス、ルールへの理解も必要ですが、W杯のレフリーには競技規則通りに笛を吹くだけではなく、状況に応じた判断が求められます。とりわけプレーヤーから試合を裁いてもらいたいと思わせるような説得力が大事になってくる。その点、滑川選手のラグビーの理解力、人間力は非常に高い。彼はプレーヤーを納得させる笛が吹ける。特に高いレベルになればなるほどプレーヤーを納得させる力があると感じています」
日本で高い評価を受ける滑川選手が目標とするレフリーは、SRでプレーした経験を持ち、W杯日本大会を担当したオーストラリアのニック・ベリーさんです。
「あの人は絶対トライを近くで見ていて、モールからのトライも絶対見逃さない。僕もTMO(ビデオ判定)は一切使わず見たいと思っている。プレーヤーが持っているセンスや勘も大事だと思っているので、そこを突き進めてやっていきたい」
そして、こう続けます。
「2023年(フランス)、27年(開催地未定)のW杯にレフリーとして、もちろん主審として立つことが自分のゴールであり、使命だと思っています。それが日本人ラグビー選手のもうひとつの道になる。そこは自分の使命だと思って頑張っていきたい」
過去のW杯で主審を務めた日本人はただ1人。元トップリーガーに限れば誰もいません。滑川選手は“栄えある第1号”を狙っています。
「ラグビー界への恩返しがしたい。何か後輩に残せたらという思いがあります。自分が突き進むことで誰かひとりでも続いてくれればいい。自分の企みではトヨタのスクラムハーフが全員レフリーになってくれればいい。そのくらいの覚悟で新しい道を切り拓きたいと思っています」
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