2季目のリーグワンを制したクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。ベストフィフティーンにはチームから最多タイの4人が選出され、シーズンMVPにはキャプテンのセンター立川理道選手が輝きました。フェアプレーチーム賞を受賞するなど充実のシーズンを終えたスピアーズの石川充ゼネラルマネジャー(GM)に初Vまでの軌跡を辿ってもらいました。
――まずは優勝おめでとうございます。
石川充: ありがとうございます。優勝後は3週続けて、祝勝会や関連行事に出席しました。“優勝すると、こういう感じなんだ”と、いろいろな経験を積めました。クボタの社員の方々が、お客さんから「優勝おめでとう」とお祝いの言葉をいただくことによって、スピアーズを誇りに感じてくれているようです。「Proud Billboard~強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの誇りの広告塔となる~」という我々のビジョンが今回の優勝で、さらに大きくなっていると実感しています。
――スピアーズは1978年創部で、トップリーグ時代には2部降格も経験しました。1部リーグでの初優勝の味はいかがでしたか?
石川: 優勝後の関連行事について、準備しておかなければいけないことなどが分かり、とても勉強になりました。いただいたお祝いの花や電報に対するお返しの費用も事前に見積もっておかなければいけなかった。それに優勝パレードも用意していませんでした。正直、そこまで考える余裕がなかったんです。
――決勝戦を振り返ってください。昨季プレーオフ準決勝で敗れ、今季もレギュラーシーズンで黒星を喫した埼玉パナソニックワイルドナイツに17対15と逆転勝ちでした。
石川: あの試合は80分間、チームが今までやってきたことが詰まっていました。ハードワークをし、相手にプレッシャーをかけること、チームとしてしっかりコミュニケーションを取ること、反則をしないこと。それら全てが決勝で発揮できていた。決勝トライも相手にプレッシャーをかけてボールを奪い、そこから前進して最後はウイングの木田(晴斗)が決めた。後半25分という時間帯も最高でした。
――ノーサイドの瞬間はグッと込み上げてくるものがありましたか?
石川: 私はスタンドから試合を観ていましたが、試合終了2、3分前にピッチレベルに降りて行きました。近くにいた関係者から「勝つね」と言われて「そうですね」と答えながら、“勝つときってこんな感じなんだ”と冷静でしたね。
――石川さんは11年度からチーム統括、16年度からGMを務めてきました。
石川: 私がチームを統括する立場となった当時は2部(トップイースト)。どうすれば1部に上がって優勝できるかを模索しながらやってきた。フラン・ルディケがヘッドコーチ(HC)に就く前は、社員の石倉俊二監督(現・専修大学監督)、現・トンガ代表HCのトウタイ・ケフHCの体制で4シーズンを戦いました。2人からフランへ引き継いだプロセスも良かったと感じています。彼ら2人がつくりあげてきた文化に、スーパーラグビー(SR)で優勝経験のあるフランが新しい文化を積み上げてくれた。
――ルディケ氏がHCに就任(16年度)してから1、2年目は12位、11位となかなか結果が出ませんでした。
石川: 我々が目指した“正しい文化”をつくるには、時間がかかると思っていました。フランからの要求も「いいスタッフ、いい人材がほしい。いいマネジメントをし、いい採用をして、いい環境づくりをしてほしい」と明確でした。
――ブルズでSRを2度制したルディケHCが求める水準が高く、それによってチームにハレーションが起きたことは?
石川: いいえ、彼は強引に物事を進めるタイプではありません。日本ラグビーやクボタのラグビーを理解しつつ、「こういうラグビーをしていきたいから、こうしてほしい」などとリクエストしてきました。もちろん我々としてもすぐにできることと、時間がかかることがある。お互いにコミュニケーションを図りながらチームづくりを進めてきました。
――スピアーズはチームの雰囲気の良さがたびたび、取り上げられてきました。そうした文化は徐々に醸成されていったのでしょうか?
石川 はい。元々、仲は良かったと思いますが、その中身が変わっていきました。かつては社員選手が多く、仕事とラグビーの両立を楽しんでいた時期もありました。前任のHCのケフは、オンとオフを切り換えたいタイプで、オンではハードワークを求め、オフでは“飲みニケーション”を大事にしていた。フランはまず「良い人間にならないとダメだ」という軸がある。シーズン中、休みの日も羽目を外し過ぎるなと。前日酒を飲み過ぎてしまっては、翌日の練習のクオリティが下がってしまいますから。そうしたラグビー中心の生活、文化がチームに徐々に根付いていったのだと思います。
――「良い人間」というのは、新人選手の採用基準にもなっているようですね。
石川: そうですね。それに加え、クボタに合う選手、スタッフという基準でアプローチしています。特に今の選手は、真面目で良い子が多いのが特徴です。
――今季、トップリーグからの3季連続新人賞は逃しましたが、ウイング木田晴斗選手をはじめ、若手の活躍が目立ちました。リクルートに関して、選手、学校側の反応は変わってきていますか?
石川: 昔とは全然違いますね。チームが成長してきた理由を知りたい人が多く、選手やコーチを「練習に参加させてくれないか?」という話が増えてきましたね。フランはオープンな性格だから、何でもウェルカムで、練習に来た選手やコーチをミーティングにも参加させています。そういうところも選手を送る側には魅力的に映っているようで、採用に大きく影響していると思います。
――6月21日、来季の補強で、ウェールズ代表84キャップのフルバック、リアム・ウィリアムズ選手の加入を発表しました。
石川: まずチームとして、彼のようなキッキングゲームを得意とするフルバックを探していた。今季は18試合中16試合に出場(13試合フルバック、3試合ウイング)したゲラード・ファンデンヒーファーも34歳です。彼の負担を軽減することも考えなければいけませんし、彼とは違う特長を持つフルバックが必要でした。特にサントリー(東京サントリーサンゴリアス)、パナソニック(ワイルドナイツ)と戦う際にはキックの出来がポイントになります。後方からキックでゲームをマネジメントできる選手が欲しかった。我々の補強ポイントにウィリアムズがハマッたということです。
――外国人選手獲得も人間性を重視するのですか?
石川: そうですね。まだ私は直接会っていませんが、良い人間であることは間違いありません。彼は「奥さんと来日するのが楽しみ」と言ってくれています。
――スピアーズの外国人選手は比較的長く在籍している印象があります。
石川: それぞれの契約期間は具体的には言えませんが、選手によっては2年契約を結び、1年延長のオプションを付けているケースもあります。
――来季は連覇がかかります。
石川: もちろん目標は連覇です。加えて集客や事業運営のところでもチーム力を上げていかなければいけません。特にスタジアムをどうマネジメントしていくのかが一番の課題です。今は“えどりく”(スピアーズえどりくフィールド)を軸に、いろいろな可能性を模索している最中です。
――そのために必要なことは?
石川: ウチには“オレンジアーミー”(スピアーズのファン、選手、関係者の愛称)というコアなファンがいますが、その数をもっと増やしていかなければいけません。スタジアムに足を運んでいただける人を増やすためには、ラグビーファンだけではなく、ラグビーに興味や関心がない人も巻き込んでいかなければいけない。ラグビー界は大人が観戦したいから子どもを連れて行くというケースが多いと思いますが、我々はまず子どもが行きたくなるスタジアムにしたい。そこがスタジアムマネジメントのカギだと考えています。
<石川充(いしかわ・みつる)プロフィール>
1969年2月2日、大阪府出身。現役時代のポジションはスクラムハーフ。中学1年でラグビーを始める。龍谷大を経て92年、クボタに入社。クボタスピアーズ(現・クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)が初の全国社会人大会出場を果たした97年度まで選手としてプレー。2003年度に採用担当、翌年は主務に就いた。11年度からチーム統括、16年からはGM(19~20年度はチームコーディネーター)に就き、スピアーズのチーム強化に力を注いでいる。
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