
2024-25シーズン、リーグワン・ディビジョン1で8位に終わった横浜キヤノンイーグルスは、25-26シーズンを新体制で迎えます。22-23シーズンにはチーム史上最高の3位に導くなど、5シーズン指揮を執った沢木敬介監督が退任。新指揮官には元ニュージーランド代表(オールブラックス)のアシスタントコーチ、レオン・マクドナルド氏が就きました。交渉にあたったイーグルスの井上聖人ゼネラルマネジャー(GM)に経緯を聞きました。
――来季に向け、指揮官が変わり、新体制となりました。
井上聖人: 5シーズン、チームを率いた沢木さんは大功労者です。2度のプレーオフ出場、過去最高の3位という成績を収めてくれたことには感謝しかありません。ただ我々としては、この5年を一区切りとし、“チームとして次のフェーズにいこう”という判断をしました。
――マクドナルド新HCは選手としてオールブラックス56キャップを誇り、2003年オーストラリア大会、07年フランス大会に出場したキャリアを持っています。日本ではヤマハ発動機ジュビロ(04-05シーズン)でプレーしました。ケガのため公式戦の出場こそありませんでしたが、近鉄ライナーズ(09-10シーズン)にも所属していました。
井上: ご縁があったのは彼が指導者に転身してからです。私自身、イングランドのチームでプレーした経験があり、神戸製鋼(現・コベルコ神戸スティーラーズ)にいた頃から外国人の交渉を担っていました。レオンに対しては、オールブラックスを辞めた頃から、イーグルスとしては興味を持っていました。今回、沢木監督の退任が決まったタイミングで正式にオファーを出しましたが、ヨーロッパのチームからも魅力的なオファーが届いていたそうです。彼自身、すごく悩んでいたようですが、オファーから1、2カ月で、イーグルスに決めてもらえました。
――イーグルスが彼にオファーした主な理由は?
井上: 3つあります。1つはイーグルスのアタッキング・ラグビーを継承してくれそうだということ。その点は譲りたくなかった。アタッキング・マインドを持ったコーチを探していましたので、レオンは適任でした。
――2つ目は?
井上: 彼は他者へのリスペクトを持ち、尊重することができる人間です。もちろん我々は指揮官の意向を聞きますが、その全てをチームづくりに反映させるとは限りません。HCは在籍期間中に勝つことを考えますが、我々は10年先、20年先も見据えないといけません。その意味でHCがいなくなった後、ゼロからつくり直さないといけないという状態にはしたくなかった。そのことをしっかり理解した上で、就任してくれる人を求めていました。
――指導力に対する評価は?
井上: ブルーズ(ニュージーランド)をスーパーラグビー・トランスタスマン優勝(21年)、スーパーラグビー・パシフィック準優勝(22年)に導くなど実績は十分です。ブルーズはオールブラックスの選手が多数在籍するタレント集団ではあるものの、まとまりに欠けるきらいがあった。ところが彼が19年にHCに就いてから、チームとして非常にまとまり、03年以降遠ざかっていたタイトルを獲得した。その指導力は大変、魅力的に映りました。
――3つ目は?
井上: 我々は新卒、移籍で獲得した選手を育てて勝ちたいと思っています。その考えにレオンが賛同してくれた。日本人選手と外国人選手が分断され、外国人選手が主となって回すようなチームにはしたくない。選手起用に関しても、「育てながらチームを強くしてほしい」という意向を伝えています。
――マクドナルド新HCはどんなキャラクターですか?
井上: 非常にスマートで、“イイ男”ですね。仕事をしていて高圧的な感じがなく、フレンドリーな人柄です。一方で、はっきりモノを言うタイプなので、周囲に求めるものは、かなり高い。ただ私としてはその方がやりやすい。我々もできないことはできないと言いますから。来日はまだ(取材時=7月11日時点)ですが、オンラインミーティングはかなりの数をこなしています。その印象として、1人で全てやろうとするコーチではないと感じましたね。任せるところは任せる。きちんと要望は伝えますが、それ以上は口出ししないですね。
――6月30日には新入団選手9人を発表しました。6シーズン在籍したフランカー/ナンバーエイトのサウマキ アマナキ選手(コベルコ神戸スティーラーズ)ら日本代表キャップホルダーのほか、東芝ブレイブルーパス東京の2連覇に貢献したユーティリティバックスの森勇登選手が加わりました。
井上: この9人に限らず、イーグルスの選手全員には「チームにいる選手、スタッフには意味がある」と伝えています。比較的選手数が少ないのは、イーグルスに来て成長してほしいという狙いがあるからです。練習中、タッチライン際で見ているだけの選手を抱えたくない。選手としても人としても成長し、上のレベル、次のキャリアにいってほしい。そういう場をイーグルスは用意したいと考えています。
――この9人を補強した意図は?
井上: 今回に関しては、ポジションバランスですね。24-25シーズンはケガ人が出て、終盤戦でフィジカルバトルにおいて劣勢に回ってしまった。そのためフォワードを中心(7人)に強化しました。
――そのうちの1人、サウマキ選手は4季ぶりの復帰となりました。
井上: 彼が戻ってくることに対する内外への影響は大きい。一度出て行った選手が帰ってくるというのは、チームの魅力を発信するという意味でも価値のあるものだと思っています。
――バックスでは、ブレイブルーパスで中心選手として成長しつつあった森選手が加わりました。
井上: 彼は能力が高く、キープレーヤーの1人です。ブレイブルーパスではウイングで起用されていましたが、本人はインサイドバックスのプレーを希望していたそうです。我々としては彼が一番輝ける場所を見つけ、そこで活躍してほしい。イーグルスからジャパンの選手へと成長することを願っています。彼がイーグルスを選んだことを後悔させたくないと思っています。
――新シーズンに向けての意気込みを。
井上: 捲土重来を期すシーズンだと思っています。体制を変えたということもあり、いろいろなことが起こり得る。つまずいたり、思い通りにならなかったりする場面もあるでしょう。それでも我々は現場の人間を信じ、彼らがしっかりとパフォーマンスができる環境をつくっていきたいと思っています。
――目標もお聞かせください。
井上: 当然日本一ですが、まずはプレーオフ進出です。昨年プレーオフに進めなかった悔しさは、チーム全員が感じています。それゆえプレーオフに進出できるだけのチーム力を付けたいと思っています。また最新のジャパンに選ばれたのはウイング石田吉平だけ。少なくとも常時5人の代表選手を輩出できるようにしたい。それだけポテンシャルの高い選手が所属していると自負していますので、しっかり育てていきたいと思っています。高いレベルでのコンペティションを経験している選手が増えれば、テストマッチに近いラグビーを見せることができ、チームのウイニングカルチャー醸成にもつながる。それがイーグルスの10年先、20年先に生きていくと考えています。
<井上聖人(いのうえ・きよと)プロフィール>
1978年10月16日、兵庫県生まれ。現役時代のポジションはウイング。長田高校入学時から六甲ラグビーフットボールクラブで競技を始める。京都教育大学進学後も同クラブでプレー。大学3年時にイングランドにラグビー留学した。2000年、神戸製鋼所(現・コベルコ神戸スティーラーズ)に入社。02年に神戸製鋼を退社し、イングランドで約3シーズンプレーした。在英時にラフバラ大学大学院を卒業。現役引退後は、神戸製鋼で通訳兼コーディネーター、チームコーディネーターを務めた。17年4月、横浜キヤノンイーグルスに加入。6シーズン、チームディレクターを務め、24年6月からゼネラルマネジャーに就任した。
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